Ⅱ
「えっと、七月の初めくらいでしょうか。お父さんには言わないで下さいね? 一番騒ぎそうなので、それはそれで困ります。だって、夏海の思い違いだってこともありえるんですから」
確かにその気持ちは分かるけど、父さんにも相談はした方がいいんじゃないかな。
しかしそれで父さんが動き過ぎて、犯人が夏海に手を出したりしたら困るからな。
「今もいるのか? ほら、家の外から見ているとかさ」
ああ、怖い怖い。本当にそんなのがいるとして、俺は何かが出来るのだろうか。
「分かりません。夏海、ちょっと見てみますね」
怯えるような表情をして、そっと夏海は窓の外を覗く。
「いえ、見当たりません。隠れているのでしょうか。それとも、本当は誰もいないのでしょうか。夏海、実際に姿を見たことはありませんから」
そうか。夏海の思い違い、それだったらいいんだけど……。
「まあ、お兄ちゃんといるときは考えないようにしたいです。安心してもいいですよね? お兄ちゃんは夏海のことを守ってくれますもんね」
そんなこと言われても……。でもまあ安心して欲しいから、安心していて欲しいから。
「ああ、守ってやるよ」
そう答えておいた。
「ありがとうございます。お兄ちゃんにそう言って貰えて、夏海はとても嬉しいです。何だかお兄ちゃんに言えたら、少し楽になったような気がします。ありがとうございました」
良かった。話しただけで楽になるってこともあるもんね。
夏海に少しでも楽になって貰えたんだったら、俺はそれでよかったや。ほんの少しだけでも、俺は夏海の役に立てたってことでしょ? 良かった良かった。
「じゃあお兄ちゃん、夏休みの宿題教えて下さい。最初にやっちゃうタイプなんです」
嬉しそうな夏海の笑顔が見れて、俺も嬉しくなってくるな。
「そうだな、エライエライ。じゃあ、俺も一緒にやっとくべきかな……」
妹がしっかり勉強するって言ってるんだから、俺も兄として勉強しているべきだろう。夏海だってバカじゃないし、自分で解いている間は俺が俺の宿題出来るだろ。
「ちょっと待ってくれ。それまで分かるところやってな」
夏休み後半慌てたくないし、仕事も少しはあるだろうし……。まあ、遊びに行くみたいな感覚だけどね。
「お兄ちゃん、夏海を一人にするつもりですか? さっき言ったばかりじゃないですか。どうして、どうして夏海を一人にすると仰るのですか」
いやいや、そんな少しくらい大丈夫だろ。
家の中だし、俺の部屋だったらそんなに離れてないし。




