ⅣーⅢ
その日はそんなところまで決定して、あとは雑談しかせずに帰る時間となった。
「はぁあ、今日は疲れたけど楽しかったです。夏海、お兄ちゃんは勿論ですが……。いおのことも、アリスちゃんのことも大好きです。スタッフやファンの皆さんも、夏海は皆大好きなんです。ありがとうございました」
最後帰り際に、夏海はそんなことを言って出て行く。
でも夏海にそんなこと言われちゃあ、お礼だけで出た俺が恥ずかしくなってくるじゃないか。まったく、こういうところがあるから夏海は…………可愛いんだ。
「しかし、お兄ちゃんが遂にCDデビューですか。グッズとかも販売しちゃって、楽しみですね。お兄ちゃんのだったらきっと、発売した瞬間完売してしまいますよね。だからちょっとずるいかもしれませんが、夏海は販売前に買っちゃいたいです。特別枠ですよ? だってお兄ちゃんを誰よりも愛しているのは、この夏海なんですから」
こんな調子で、家に着くまで夏海はずっと騒ぎ続けていた。
電車の中とか、周りの人を少しでも気にして欲しいと思った。そう思いはしたのだが、俺は何も言わなかった。
だって夏海に悪気はないから、だって夏海が嬉しそうだから。
それだったら公共の場で騒いでいいと言う訳ではないが、そこまでの五月蝿さでもなかっただろう。誰にも何も言われなかったし。
勿論注意されていないからいいと言う訳ではないが、他の人だって全然気にしてなさそうだったもん。
「夏海、ありがとな。俺も大好きだよ」
家に着くと夏海はすぐ自分の部屋へ走って行ってしまう。だから夏海がいなくなってから、俺は聞えないよう小声でそう言うんだ。
まだ認めたくないから? いや、このままでいたいから。
「そうだ! お兄ちゃ~ん、ちょっと来て下さい」
二階から夏海の大きな声が聞こえてくる。
「どうかしたのか? そんなに騒いで」
精一杯子供な夏海だったから、ちょっと大人ぶって俺は返事をする。
まあ、そんなの当り前さ。夏海は『妹』で、俺は『お兄ちゃん』なんだから。
「そういえば、昨日放送したんです! だから録画してある筈なんです! ね? 早く一緒に見ましょうよ。夏海とお兄ちゃんの共演作品ですよ」
内容は分かっている。でも自分が出演しているんだ、見ない筈がないだろう。
さすがにもう、ゲームやアニメでの恥ずかしさには慣れた。だってそれだったら、声だけで俺自身は見えないんだからさ。
「ああ、そうだったっけ? 分かった」
そこまで出演作品が多いという訳ではないが、一応もう半年近くやってるんだぜ? そんな素人がって? でも仕事に慣れるには十分さ。
って、自分の中で照れ隠し戦争を繰り広げてる場合じゃないね。
こうしててもちょっとにやけちゃうから、すぐ気付かれて夏海に不信がられる。あの夏海に変態や変人呼ばわりされるのは、さすがの俺でも嫌だからさ。




