ⅣーⅠ
五月蝿いくらいに騒いで、夏海たちは練習へと帰って行った。
「妖精さんと森の動物たち、ねぇ。その言葉を使うつもりはないけれど、イメージ的にはいいと思わない? 衣装とかそんなののイメージ的にはさ」
あれ? そもそも、何を作るって話をしてるんだっけ。
「さあ、そうなんすかねえ」
納得しかねる感じだったので、俺は肯定も否定も返さなかった。
「てかお兄さん、キャラソンとかショコラティエととかでしかCDを出してなかったりするのかしら」
だよね、ちょっと思った。グッズとか出す前に、CDを出すのが普通なんじゃないかなって。
いや、俺はよく分かんないけど。よく分かんないんだけど、そうなんじゃないかなって思ったんだ。
「まあ、そうだね。うん」
グッズとかの恥ずさもヤバいけど、自分の歌なんて言う恥ずさも物凄いよね。一応アフレコは出来るけど、でもその緊張でも倒れそうなくらいだもん。
「本人の歌、やってみる? お兄さんを明らかに贔屓してるのなんて、誰から見たって前から分かっていることなんだしさ。どうせなら、そこまで行っちゃいましょうよ」
確かにそうかもしれないけど、やっぱアリスちゃんの言葉は傷付くわ。俺の豆腐メンタルもうボロボロだわ。
声優やってること自体妹の七光りだし、他の人より贔屓されてるのも認めるけど。だって俺よりずっと長くて、俺よりずっと出演したい人だっているのに。
「チャンスを与えられない人の為にも、与えられたチャンスを無駄にしないで。それが、勝者としての行動ってものなんじゃないかしら。ふふっ、私には分からないけどね。これは、前に夏海さんが言っていた言葉なの。カッコいいでしょう」
夏海の言葉なんだったら、アリスちゃんがドヤ顔で言う意味が分からない。
「うん、そうだよね。俺の為にグッズやCDなんて作って貰えるんだったら、作って貰えるんだったら欲しいと思う。恥ずかしいなんて言ってらんないよな」
やっぱり夏海はプロだよな。俺よりずっと先輩なだけあって、カッコいいこと言ってくれる。どうせなら夏海の口から聞きたい気持ちもあるけどな。
「ええ、そうじゃなくちゃ私もやりずらいわ。チャンス、欲しがって頂戴」
ニッと満足そうに笑うアリスちゃん。
よしっ! 俺のことを好きでいてくれる人がいるなら、その人の為に俺が頑張らなくてどうしよう。
「シングル一枚出すくらい、誰だってやっている行動だわ。これくらいだったら、贔屓してるだなんてこれ以上言われる必要もないと思うわよね」




