ⅢーⅨ
ここまで言って唯織さんは、優しく微笑んで息を吸って言葉を続ける。
「だからなーちゃんのことなんて誰も気にしません。特に誰も気に留めませんから、別に無駄に緊張する必要なんてないのですよ」
ああ、なるほどね。
夏海想いの優しい唯織さんだから、ふんわり微笑みを浮かべてそんなことを言えるんだろうね。
「そうですね。皆いおのファンですから、夏海は大丈夫です」
嬉しそうに微笑み、夏海は何度もそう呟くのであった。
「毎回言っているのよ? 少しだけだけど、これは唯織さんの優しさを感じるわよね」
毎回って、ライブの度に言ってるってことなのかな。
「そうだわ。二人にも聞こうかしら」
パンと手を叩いて、なぜかアリスちゃんは不敵な笑みを浮かべる。
「お兄さんのグッズを作りたいんだけど、何かあるかしら? まずお兄さんのファンに名前を付けよう、なんて話をしていたんだけど」
夏海と唯織さんの二人に聞いて、まともな答えが返ってくるとは思えないのだが……。
「お兄ちゃんグッズ? 欲しいですっ。一番初めに、一番最初に夏海が買って見せます! めっちゃめちゃ欲しいです」
しかし残念ながら、夏海は論外らしかった。一方唯織さんの方は、意外にも本気で考えてくれているようだ。
「欲しいとかそう言うのを聞いているんじゃなくて、まずファンの名前でイメージを決めたいって言ってるのよ。聞いてたかしら? まだ作っていないわ」
冷静にアリスちゃんがツッコんでくれた為、一応夏海も落ち着いてくれたらしい。一般的に一般人から見れば、落ち着いたとは言えないかもしれないけど。
「女王とマスター、どっちがいいでしょうか。冬樹さんなんだったら、この二択なんじゃないかとワタシは思います」
訂正。やっぱり唯織さんが本気で考えてくれる筈がなかった。
だって意味分かんなくない? 女王ってそもそも性別違うし、マスターって何だか分かんないし。
「あぁ、なるほどね」
「それはありますね」
しかしなぜだか、夏海もアリスちゃんも納得しているようだった。
「嘘でしょ? 俺ってそんな感じのイメージなの? ビックリなんだけど」
三人が言うんだったらそうなんだろう、そう思って俺はつい問い掛けてしまった。
「嘘ですよ? 女王様キャラは、冬樹さんには全然似合わないんじゃないかと思います。マスターってもっと大人の男性って言うか、カッコいい感じがしますし」
戸惑い訊き返す俺に対して、あっさりきっぱり嘘だと言ってくれた。
「まあこんなこと言ってないで、そろそろ真面目に考え始めようかしらね」




