ⅢーⅠ
翌日俺達兄妹がバタバタと準備を終えた頃、丁度アリスちゃんのお迎えが来てくれた。
「アリスちゃん、おはよう」
取り敢えず挨拶をして、俺は家を出る。
「おはよう。珍しくすぐ出て来てくれたわね、どうかしたの? 具合でも悪いのかしら」
折角さっさと家を出てあげたというのに、酷い言い草である。
「まあいいわ。早い分には全く問題ないから、今日はゆっくり行けそうね」
そうだよね! 早い分には問題なし、これってアリスちゃんも褒めてくれたってことかな。あの毒舌アリスちゃんに認めて貰えた? まあ、喜ぶ程じゃないけど。
「おはようございます。アリスちゃん、今日の仕事って何でしたっけ」
バタバタ家を出て挨拶をした後、夏海はすぐに今日の仕事内容をアリスちゃんに問い掛ける。
「ライブの練習よ。それじゃ夏海さん、今回はいい加減慣れて頂戴。毎回夏海さんったら酷い緊張のしようで、折角練習を頑張ってるのに本番では歌えなくなっちゃうんだもの」
そんなアリスちゃんの話を聞いて、俺は少し意外に思う。
夏海が頑張る子なのは分かってる。夏海が緊張しちゃうのも分かってる。でもだから夏海は、練習を人一倍頑張って自信を付けるんだ。そして本番ではしっかり、練習通り完璧にやり遂げて見せる子だと思ってた。
クラスや学校での発表会とは、やっぱ訳が違うのかな。いやいや、人数が桁違いなのは分かってるんだけどさ。
「緊張しちゃうのは仕方がないじゃありませんか。それに夏海、本番でも歌えていますもん。ただ、たまに忘れちゃったりしますけど……。声裏返っちゃったりもしますけど、本番もしっかり大成功させてます」
声裏返っちゃうって、それ大丈夫なの? だって声優ってさ、声が本職じゃん。
「でも唯織さんは本当に慣れたものよ。あんだけ大勢を前に、緊張の様子なんて全く見せないわ」
あぁ~、何か唯織さんのそれはイメージ通りかも。でも俺だったら、絶対無理なことだな。もう緊張で歌どころじゃなくなっちゃうよ。
俺がライブなんてやることはないだろうから、別に関係ないことだけどさ。
「だっていおは、ライブなんて毎週やってるじゃないですか」
えっ? 毎週? 夏海がそう言うんだったら本当なのだろうか……。
「毎週って、そこまで頻繁にはやってないわよ。いくら唯織さんだって、それは有り得ないでしょうよ。てかお兄さん、信じていないわよね? まさか」
だよね、毎週なわけないよね。てかニヤニヤと笑いながらアリスちゃんが俺を見てくるんだけど、俺は別にそんな話信じたりしてないよね。




