ⅡーⅤ
「それって、ショコラティエの?」
でもまあ別人なんてこともあり得ないとは言えないので、恐る恐るそう問い掛けてみる。ショコラティエの双葉唯織ちゃんは、他にいないだろうもんね。
「ああ! 知っているんだな? それで、会えるのかよ」
ショコラティエが好きなのか? でもだったら、俺のことはともかく当然夏海のことは知っている筈だ。
「うん、結構会ってる。……ねえ邦朗、学園生活っていうミニアルバム知ってるかな」
そう問い掛けてみる。だって最初に唯織さんを出すってことは、一番好きなのは唯織さんだってことでしょ? それとも、声優はあんま好きじゃないのかな。
「勿論、持っている。あれ? そういやあれ、唯織ちゃんと夏海ちゃんともう一人知らない男がいたような気もする。何か優しい声してたから、どこのイケボ声優だよとか思って腹立った。そんで、それが何? どうかしたのか」
俺の名前なんぞ、こいつは見てもいないってことかいな。
でも優しい声とかイケボ声優とか言ってくれてるし、それは褒めているって言うことなんだよねきっと。
「どうして腹立つんですか? 冬樹さん程の優しい声したイケボさんは、そうそうそういないと思うんですが。それに夏海ちゃんも可愛いですよね。あたし、夏海教の信者でもあるんですよ。もう少ししたら、唯織軍団にも所属しちゃうと思いますけどね」
夏海教信者で、唯織軍団所属? でもまあ、唯織軍団にはまだ所属はしてないってことなのかな。もう少しでだから。
「夏海教? 唯織軍団? ……へえ」
反応的には、その名前すら邦朗は初耳だと言うところだろう。ってことは、やっぱりそこまでのファンではないんだな。一応CDは持ってる、みたなところかな? こいつ金持ちだし。
「まあいいや。そんじゃ邦朗、帰ったら歌ってるその男の名前見てみるといいよ」
もうそろ部活行かないとヤバいんじゃないか? そう思って俺は、それだけ言って帰ろうと歩き出す。
「あたしは文芸部なんですけど、今日はたまたま部活休みなんです。ねえ冬樹さん、一緒に帰ってもいいですか? それともやっぱり、さすがに自宅の場所はNGですかね……」
たまたま部活が休み? う~ん、まあいいか。
「うん、別にいいよ? 家の方向同じなの?」
中学だったら大体周囲に住んでいる人だけだけど、高校まで来たらさすがにそんなことないと思うんだ。頭のいい人が遠くからくるような高校でもなければ、バカの寄せ集めみたいな高校でもない。確かに近いからって理由で来る人もいるだろうけどさ。
「さあ、分かりません。分かりませんけど、迷惑でなければ冬樹さんの家まで行きたいです」




