ⅡーⅡ
「そう言われるの初めてで、サインとか書いたことないんすけど……」
だから勘弁ってことで、どうすりゃいいか分かんないもん。でもまあ女子苦手とは言えども、握手くらいなら出来ると思うけどさ……さすがの俺だって。
「それじゃっ、記念すべき初サインですねっ! 何かに書いては貰えないでしょうか。お願いします、本当に。宝物するんです」
俺がどうしようかと戸惑っていると、丁度チャイムが鳴ってくれたので俺は教室に戻ることが出来る。……隣のクラスの子で良かった。
「横島さんがあんなに話しているとこ、俺初めて見た。冬樹、知り合いだったの? 意外だわ」
斜め前の席に座ってる俺の友達の堀田邦朗が、そう声を掛けてきやがった。そいつはもう女子好きの変態で、女子を追い掛けては蹴られて喜んでいる。
「横島さんって? さっきの女子生徒のことかな」
でもまあ引っ込み思案っぽかったし、あんまイメージもない子だったのは認めるさ。俺自身も、今まで話したことなかっただろうしさ。
「そうだよ、狙ってたんじゃないのか? でも冬樹が話し掛けるなんて珍しい」
いや、俺話し掛けてない。狙ったりもしない、お前と一緒にしないで欲しいってもんだ。
「キョトンとしやがって、お前な! まさか貴様ぁ、横島さんから話しかけて来たとでも言いたいのか? 有り得ない。貴様ぁぁあ、どれだけのモテ男なんだ」
何だこいつ、五月蝿いな。モテ男とか何とか言われたって、俺がいつそんなにモテてたんだかさっぱり分からないし。
「まあまあ、落ち付こっか。まず訊くよ? 横島さんってのは、その女子の名前ってことでいいんだよな」
あんま絡まない人だと、高校まで来ると本当に名前分からなかったりしちゃうんだよな。でも女子の情報なら何でも知ってる変態が近くにいて良かった、本人に訊くよりは訊きやすい。
「何だとぉぉお! 貴様、横島さんに名すら知らずに。許せん、許せんぞぉ」
あっ、そうでもなかったかも知んない。でもまあ、横島さんってのはきっときっと名前なのだろうな。でも恐らくそれで確定にしても、曖昧な情報名名前で呼ぶのには勇気がいるな……。
「堀田、もう話はいいか? いい加減静かにしてくれると嬉しいんだが」
いつの間にかいたらしく、先生が邦朗を鎮めてくれた。でもまあチャイムってな理由で、教室に戻ることが出来た位なんだからね。
「先生、ちょっと待って下さい。悪人にはそれ相応の罰を与えなければいけないんですよ」
嘘だろ……、何だこいつ。先生が言っているというのに、ちょっと待って下さいって何やねんアホ。




