Ⅸ
夏海はそう言っているのだが、本当に無理のないお手頃な値段なのだろうか。たまに夏海って、お手頃とか言って俺に値段隠すんだもん。
そもそも俺が兄なのに、妹に奢って貰うなんて……。その時点でちょっとあれだよね、俺もそう思うよ。
店員さんに案内されて、夏海に強制的に席に座らせられる。夏海が俺を連れてきたこの席、何か意味があるのだろうか。この席に無理やり引っ張って来られたんだけど、わざわざ連れてくるような特別な席なのか? まあよく分からないけど、別にどうだっていいかな。
「お兄ちゃんあのね、ここの席はレア席なんですよ。よく分かんないんですけど、この席だけメニューにバラの絵が描いてあるんです! 恋人に人気の席なんですって。夏海とお兄ちゃんにピッタリだと思いません? えへへ、一緒にパンケーキ食べて結ばれちゃいましょう」
そこまで早口に言うと、夏海は嬉しそうに笑う。メニューにバラの絵? 見当たらないけど……どこだろう。
「おっ、お兄ちゃん探してますね。でも表紙をいくら見たって見つかりませんよ、夏海が教えてあげましょうか? 有料ですが」
表紙じゃないのか、そう思って俺はメニューを手に取って開いてみる。
……え? そして俺は驚愕する。バラの絵を見つけられたのではなく、俺が見たのはそこに掛かれている数字。
夏海さん? これのどこが、お手頃な値段なんだい。
「あっお兄ちゃん、驚いたでしょう? とっても安いですよね、ここ」
え? 夏海さんや、何を言っているんだい。
これはつまり。東京慣れした夏海には安いってことか? でも田舎育ちの俺には、どうしても安いとは思えないのであった。
「バラはここです。もうパンケーキ来たので、正解発表しちゃいましたけど……別にいいですよね? それよりも、早く食べましょう」
夏海が指差してくれたもの、……ん? あっ、凄い……。初めは気付かなかったけれど、確かにバラに見える。
でも偶然じゃなさそうだし、この席だけなんだとしたら何でなんだろうな。まあそんなのいいさ、それよりも気になるのはパンケーキの方ね。
見た目で分かるくらいふっくらとしていて、形は丸ではなくハート形。いちごも何と無くハート形に見えるし、何より周りをふちどりしている生クリームが可愛らしいね! 他にもいろいろジャム? とかハート型のチョコレートとかがあった。
東京慣れした夏海にはこれがパンケーキかもしれないが、田舎育ちの俺にはどうしてもパンケーキとは思えないのであった。
「うん、女子中学生とか凄い好きそうだね」




