Ⅷ
「出さなきゃ負けよ、ジャンケンポン!」
唯織さんがいきなりそんなことを言い出すもんだから、驚いて慌てた俺は反射的にグーを出した。
「ワタシの勝ちですね、それじゃ唯織軍団所属者さんに後日ワタシ達ショコラティエ特製新作チョコレートを送らせて戴きます」
俺達の反論を許さない程休みのない早口で、唯織さんはそう言い終えてしまった。てかそもそも、唯織さんはジャンケンの勝利してもいない。
「ちょっいお、ズルくないですか? まあ、別にいいですけど……。そっか、今度こそ私が貰いたかったな。皆も予約の時には、住所とか書き忘れちゃダメだからね!」
別にそこまで意地を張るほどの物でもないらしく、夏海はそう言いながらもいつもの台詞をしっかり読んでくれた。
「以上、園田冬樹さんでしたー」
ホームページとか宛先が読み終わって、適当に唯織さんがそう言ってくれる。
「あーりがとうごっざいまっしたー」
妙な上機嫌で、夏海はスタッフさんにお礼を言っていく。
「「ありがとうございました」」
俺と唯織さんは普通に挨拶して、夏海の後を追う。夏海さーん? どこに行くんですかー? おーい。
「いおはこれからまたお仕事ですよね? でも夏海たちはもう解散ですよ、お兄ちゃん帰りましょう」
ニヤニヤニヤニヤ妙な気持ち悪い笑顔を浮かべて、夏海はたったかたったかスキップをして回っている。
「唯織さんって、意外に仕事多いんだね」
前からも俺達は解散で唯織さんは次の仕事、なんてことが結構あった。そう思って俺は、ついそんな声を漏らしてしまった。
「意外とは失礼ですね! ワタシはもうベテランの中の大ベテランですから、仕事はいっぱいいっぱいあるに決まってるじゃないですか。まあ最近仕事が多くて、ワタシも感謝してます」
ニコッと爽やかに笑い、唯織さんは立ち去って行く。
「お兄ちゃん、何のろのろしてるんですか? 早くして下さいよ。夏海ね、超良い店見つけちゃったんです」
今度は何だろう、そう思いながらも俺は着いて行く。
夏海が案内してくれたのは、スタジオがあるところの近くのオシャレなカフェであった。何か分かんないけど、この店結構緊張するな……。
「店の見た目とか雰囲気もいいんですが、やっぱここのパンケーキは最高ですよ。お兄ちゃん、食べてみて下さい」
パンケーキ。パンケーキって、女子ってな感じがあるよね。
「高級そうだね、大丈夫?」
そんなこと言うもんじゃないと思ったのだが、夏海は中学生なんだからさ。
「はい、お値段もお手頃ですよ。お兄ちゃんはお気になさらずにー」




