Ⅵ
『ある日目を覚ますと、そこは知らない森の中だった。そしてそんな俺を不思議そうに見つめている少女。この少女と出会い、共に戦い共に笑い共に泣く。この少女は俺の全てを変えた、世界の全てを変えた。異次元メモリー』
と、こんな感じの始まりで。ストーリが予想以上に面白く、俺は夜中までやり続けてしまった。
いつの間にか、夏海を探すと言う目的すら記憶の片隅にもなかった。
夏海が出れば、一瞬で気が付くと思った。しかしなんの違和感もなく進めて行き、結局夏海の存在に気付けていない。
「お兄ちゃん、面白いでしょう?」
隣で夏海がニヤニヤとしながら言ってくる。ま、まあそこそこ面白かったかな。
嘘です。面白くて、普通に嵌ってしまいそうでした。
「えっと、夏海はもう出てる?」
まだ出ていないという可能性もあるかもしれないと考え、俺は夏海に訊いてみた。
もしかしたら、夏海が出ないようにストーリーは進んでいたのかもしれない。
最初の夏海の口振りからすればメインキャラだが、実はモブキャラなのかも。そうだよ、そうでもなきゃ気付く筈。
「はい、ほぼ最初からずっと出てますよ。お兄ちゃんもしかして、分からないんですかぁ?」
最初から? ずっと……? 嘘だろ。
少し不満気に唇を尖らせながらも、夏海は楽しそうに笑っていた。
「ごめん、分からなかった。答えお願い」
俺は潔く負けを認め、夏海にそう言った。ちょっと待って、嘘どこに夏海いたん?
まさか妹の声くらいは分かると思った。
ショックな部分もあったけれど、それだけ夏海は声を変えることが出来、演技力も高いと言うこと。
プロの声優として、しっかり働けていると言う証拠だろう。
「なんと夏海は、小鳥ちゃん役でした!」
……小鳥ちゃん!? 小鳥ちゃんって、メインヒロインじゃん。最初に言った、”少女”の名前が小鳥ちゃんである。
俺はそのまま驚愕を表情に出してしまったと思う。
「ほらほら、見てみて下さい」
夏海は出演キャストを見せてきた。高梨小鳥のところには、確かに園田夏海と書かれている。
あの声が我が妹のものだなんて、ここまで夏海を可愛く思ったのは初めてだ。
実の妹なだけあって、元々可愛いとは思っている。しかし今感じたのは、可愛い妹の可愛いとは別の可愛いである。
「同姓同名なだけじゃないと言うことも、ちゃんと示した方が良いですか? だったら……」
夏海がまた押入れから何か取り出そうとしたので、俺は慌てて止めた。
何か怪しいものを取り出されても困るからな。
「いや、大丈夫だから。誰も妹を疑ったりしないから」
「分かりました、お兄ちゃん」
俺の言葉に、夏海は嬉しそうに返してくれる。こういう素直なところは夏海の魅力だと思う。