ⅤーⅢ
「これ、本当に夏海のお気に入りの台詞なんです。お兄ちゃん、いつでもどこでも夏海の声を聴いていて下さいね? それじゃあ、もうCD流しますよ」
夏海はそれを俺に手渡して、ショコラティエの物と思われるCDを流してくれた。
「この下敷きも、いつもお兄ちゃんの傍に置いて下さいね。夏海のお仕事中だってずっと、お兄ちゃんは夏海と一緒にいますよ? だから絶対、学校にも持ってて下さいね。ずっとずーっと持ち歩いてくれないと、夏海泣いちゃいますからね」
少しふざけていると思ったが、俺は叩かずにハエ叩きをしまった。あまりにも夏海が嬉しそうに言っていたので、これはハエ叩きさんの出番じゃないと判断したのであった。
ハエ叩きさんが出るのは、本当に夏海がふざけて時だけ。素直に嬉しそうにしてるんだから、今は違うに決まっているじゃないか。
「夏海、昼飯は何食べるんだ?」
まあ別に、叩かないってだけで触れてもあげないけど。
「お兄ちゃんが作ってくれたものなら、夏海は何でもいいですよ? ネギは入れちゃダメですけど」
何でもいいと言っているのに、ネギを入れちゃいけないのかよ。でもおネギ様は、結構万能だと思うぜ? いろんなのに使うから……、ダメって言われてもね。
「そういや夏海って、ネギが好きなんだっけ。それじゃあ、たっぷり入れないといけないね」
俺はニコッと笑って夏海の部屋を出ると、後ろで騒いでる夏海のことなど気にせずに一階に下りてった。夏海もCDを止めて、俺の後を着いて来る。
「いくら夏海が可愛いからって、そういうからかい方はよくないと思います。本当にネギはダメですって、ネギは。アイツはダメです、アイツだけは許しちゃいけません」
もう意味が分からないよ、ネギは悪いことしてないから。
「分かった分かった、めんどくさいな。丁度ここに置いてあったし、スパゲッティでいい?」
台所に行ったら、スパゲッティが置いてあったんだよ? 驚きと同時に、食べたくなってくるのも分かるだろ。だってあるんだもん、食べて欲しそうにしてるんだもん。
「はい、全然大丈夫ですよ? てか凄い嬉しいです」
笑顔でニッコニコと嬉しそうに、夏海は自分の椅子に座った。ああ……、手伝ってはくれないんだ。別に難しい物じゃないし、手伝いなんていても多分邪魔なだけだけどさ。
そんなことを思いながらも俺は、スパゲッティを茹でに入る。
「なあ、夏海っていつから声優をやってるんだ?」
一人でスパゲッティ君を見ていても暇になってくるので、適当なことを夏海に質問してみた。




