ⅣーⅩ
「それじゃあお兄ちゃん、夏海たちはもうあがりましょう。もう今日は、特に仕事入ってませんので。あっ、ちょっと待ってて下さいね。さっさと着替えて来ちゃいます」
夏海は着替えに行ってしまったので、俺は用意されていたらしい楽屋と言うものに入った。何か、響きがカッコ良くない? 楽屋ってさ。
「お待たせしました~、どうしますか? 東京で遊んで行くか、そのまま帰っちゃうかですけど……」
着替えを終えて朝着ていた服に戻った夏海は、滅多に見られないレベルの笑顔で俺に抱き付いてきた。まあ、これくらいはいいかな。夏海だって、凄く楽しそうにしてるしさ。
「ほら、夏海グッズを買うんだろ? 行くぞ」
「はい☆」
とても楽しそうに楽しそうに、夏海は俺の手を持って走り出す。
「アニメイトの中にね、夏海グッズ専門のエリアがあったんですよ☆ ねっ! 来て下さいよ」
沢山の人の中を、夏海はどんどん進んでいく。そして俺一人だったら入店を躊躇ってしまうであろう店、アニメイトへと迷わずに入って行く。
元々俺だってアニメは好きだったが、アニメイトに入る勇気はなかったな。ショッピングモールにあるような、小さなとこだったらともかくさ。
「ほらほら、早く来て下さいよ」
場所も覚えているのだろう、夏海はさっさと歩いて行く。手を持たれていなかったら、俺はきっと迷子になっていたことだろう。
「ここです、どうですか? 凄いでしょう」
やっと辿り着いたらしい。その棚には確かに堂々と夏海の写真があり、園田夏海と書かれていた。よくこれ自分で見れるね、恥ずかしいだろ絶対。
「へえ、色々あるんだな」
アイドルじゃなく声優だから俺は裏方のイメージだったのだが、夏海本人の写真とかでグッズを売っていた。そう言うのって、声優でも普通なのかな。
「一応夏海も、CDくらいは買っていますが……。他のグッズを買うほどお小遣いはありません、そう思っていましたけど。でもお兄ちゃんに夏海教信者になって貰う為です、全部買っちゃいましょう」
グッズなだけあって普通のものより高いし、これを全部買ってたら値段はバカにならないぞ? それは止めた方がいいだろう。
「なあ夏海、特におすすめの奴だけでいいよ。全部は大丈夫」
しかし夏海はまだ、納得でき無そうである。何でそこまでこの子は、全部買おうとしちゃうのかね。お小遣いないんでしょ? 無理しちゃダメだよ。




