Ⅳ
「ってことだからお兄さん、お願いするわ。収録は土日にして貰うから、お兄さんも絶対に来るのよ。お願いね」
アリスちゃんは、俺に笑顔で言った。……怖いよ、何その笑顔。……超怖い。
「えっと、よく分かんないけど分かった。取り敢えず、週末に何かあるってことでいいんだよね?」
別にどうせ暇だし、いいか……。いいよな、大丈夫だよな……?
「やったー、お兄ちゃん大好き♡お兄ちゃん優しい、超神です」
夏海は俺の手を持って、跳び回りながら喜んだ。こんだけ喜ばれると、俺も嬉しくなってくるな……。
「まあ夏海さんもヤル気になってくれたみたいだし、私はもう帰るわ。お兄さん、協力有難う」
アリスちゃんは後ろを向き、俺にヒラヒラ手を振りながら家を出て行った。そしてアリスちゃんがいなくなった瞬間、夏海の素直な笑顔が歪んで行った。
怖い、怖いよ? どうしちゃったのかなあ! 何かな、その獲物を狙う肉食獣みたいな目は! 俺をどうしようとしてるの!?
「お兄ちゃん、夏海がやっている役、興味ありませんか? ゲームやアニメの中で、夏海の声を聴きたくはないですか?」
え…。確かに興味はあるけど、夏海の表情が怪しいんだよな……。
「まあ、聞きたいっちゃ……」
「そうですよね、やっぱりそうですよね。じゃあ来て下さい、ほらほら早く。お兄ちゃん、来て下さいよぅ」
俺の言葉も遮って、夏海は俺を無理やり引っ張っていく。そして凄く強引に俺を夏海の部屋に入れると、ドアを閉めて門番のようにそこに仁王立ちになった。
夏海はドアの前に立ったまま、押入れから段ボール箱を取り出した。何だか凄く、嫌な予感が……。でも、逃げられないしな……。まあ仕方がないさ、別にそこまで問題ないだろう。俺はそう信じて、覚悟を決めた。