ⅣーⅨ
「ちょっと、何で無視するんですか。それだったら叩かれた方がましです、ねえ寂しくなってくるじゃあないですか! ねえねえお兄ちゃん、お兄ちゃん」
するとやはり夏海も、さすがにそのキャラはやめてくれた。
「なーちゃん、仕事ですよ。折角可愛い衣装来てるんですし、早く撮って貰っちゃいましょうよ」
ありがとう、唯織さ~ん。多少沈黙に入ろうとしてたところ、口を開いてくれて。
「でも撮り終わったら、自分の服に着替えないとなんないんですよね……」
ああ成程、そう言う考えもあるね。でも夏海、その衣装そんなに気に入ったの?
「それじゃあ終わった後にでも、一緒に写真撮らせて貰いましょうよ。ね? だからなーちゃん、早く始めますよ。皆いるんですから、待たせちゃいけませんね」
うおー! 唯織さんが大人だ、物凄く大人だ。
唯織さんの説得に応じて、夏海もやっとやる気になったらしい。おじさんたちが起動し始める。
「お兄ちゃん、夏海頑張りますからね! 見てて下さいね」
笑顔で俺に手を振ってくれた夏海は、そのまま撮影に入った。
凄いね、ダンスとか疲れそう……。夏海いつから、あんなに動けるようになったのだろう。我が妹だとは思えない、何だか輝いてて……。
「あら? 見惚れてるのかしら」
隣のアリスちゃんが、優しそうな笑顔で話しかけて来た。
見惚れている、そうなのだろうか。確かにブラコンなところもあるけれど、夏海は可愛くていい子なんだから。俺とは違う、キラキラ輝いているから……。
「あっ、私もちょっと仕事ね。待ってて」
俺が答えようと口を開いたとき、アリスちゃんは夏海たちのところへ走って行ってしまった。何をしているのか何を話しているのか、それは分からないのだけれど楽しそうに何かをしていた。
とても楽しそうに、楽しそうにしていた……。
「お・に・い・ちゃ~ん、妙に笑顔ですね。でもお兄ちゃんの笑顔、夏海は大好きです。もう撮影は終わりましたよ、残念だけど今日は終わりらしいです」
いつの間にか、もう終わってしまったらしい。今日は午前だけ? どうしてなのだろう。
「もっとなーちゃんと一緒にいたいんですけど、仕方ありませんよ。ワタシがこれから、ライブイベントに行かなきゃなんないんです。御免なさいね、ホントに」
そう言って唯織さんは、衣装のまま急いで立ち去って行った。




