ⅣーⅦ
「あんまり言って、冬樹さんのハードルをあげないであげて下さいよ。不満そうですよ? まあ冬樹さん、一応アナタの主張も聞きましょう」
主張ってほどのものは、ないんだけど……。
「とりあえず、無能は止めて欲しいと思ってさ。あのさ、普通に傷付くからね? それと出来れば、神も止めて欲しいな。イケメンとかも言わないで欲しい」
貶されるのも嫌だけど、夏海が異常にハードルあげてるのも確かだからな。
両極端なんだ。中間が欲しいところである。
「お兄ちゃんったら、わがままですねぇ。そもそも夏海は褒めているのです、何がいけないと言うのですか? それに全て、事実しか話していませんしね」
事実って、残念ながら俺には神レベルの才能なんてないと思うよ?
それとわがままってのも、おかしいと思うんだよね。普通だから、普通の意見だから。
「本当にわがままですね、でもまあ許してあげましょう。そういう性格のお方なのですから、仕方がありません。さあなーちゃん、休憩時間は終わりですよ」
許してあげましょうって、それもおかしくないかな? 俺の性格って、そんなにわがままだったかなあ。何か絶対、おかしいと思うんだよね。
でも二人は休憩を終わりにしていってしまったので、俺は全くもって反論することも出来なかった。まあ無理に言い返す必要もないけどさ。
わがままなのとは違うと思うんだよなぁ。
二人が撮影を始めると、俺はまた応援してる風に頑張った。そして遂に途中で力尽き、アリスちゃんの元へ向かった。
「ねえ、そろそろ交代お願い出来ないかな? 結構疲れたよ」
しかしアリスちゃんは、ほんの少しも動こうとしなかった。交代制、なんだよね? 変わってくれて良いって言ったよ。この耳で確かに聞いたからね。
「アリスちゃん? 交代して貰っていいかな」
そんな訳がないと思うのだけれど、万が一に聞こえていなかったという可能性を考えて、俺はもう一度言った。
それでもまだ、アリスちゃんはほんの少しも動こうという気配すらなかった。
「あら、冬樹さん。私に何か要かしら?」
涼しい顔をして、彼女はそう訊ねる。悪びれる様子など、勿論全くない。
暫くその場に滞在していると、やっとアリスちゃんが反応してくれた。でもその頃にはもう、CDは全て撮り終わってしまっていたらしい。
結局この人、全く動かなかったよね? 交代なんか、してくれなかったよね?
「いや、もう大丈夫」
仕方がないので俺は、夏海たちのところへ行こうとする。
今更、応援の交代なんて頼んだところで、今更にもほどがある。
無理に責めても上手くかわされてしまうだけだろうから、俺は諦めるしかなかったんだ。
「要がないなら呼ばないで頂戴、困った人ねえ」
困った人って!
言い返そうとしてしまったけれど、俺はなんとか堪えて、夏海たちのところまで辿り着くことが出来た。




