ⅣーⅤ
「ショコラティエって結構、早くて休みの少ない歌が多かったんですよ。でも今回は、ゆっくり目な気がしますし」
ああ、夏海と唯織さんだもんね。甘くて苦い恋のちょこれーと? って奴も、確かに休みの少ない疲れそうな歌だったとは思うし。
「ミュージックビデオの、着替えが少ないからそこも楽だと思うわ」
へえ、そうなんだ…。
その後は何だか会話が続かず、電車を降りた。
「ちょっと人が多いから、絶対に迷子にならないでね?」
アリスちゃんは今日もそんな注意をして、てくてくと歩いて行った。俺も人を避けながら、夏海と一緒にアリスちゃんを追った。
「ここを使わせて貰えるらしいわ」
今日も数分歩くと、もう辿り着いたようだ。アリスちゃんはテクテク入っていき、何かいろんな人に挨拶してスタジオらしきところまで辿り着く。
おお! 何か、CDとか収録するところっぽい。イメージイメージ、ほらなんか狭い部屋にみたいな? 説明下手ですいません。
「なーちゃん、待たせちゃいました?」
暫く待っていると、唯織さんがスタジオに飛び込んできた。今が五十七分だから、唯織さんも多分遅れてはいないのだろう。
「んじゃ二人とも、始めるよ」
「「は~い」」
二人はスタッフさん数名と何かCD撮るとこっぽいところに入り、何だか準備みたいなこと着々していた。
俺は、何をしていればいいのだろうか。取り敢えず、近くの椅子に座らせて貰った。
「冬樹さん暇そうね、何かする?」
俺が明らかに暇そうにしていたのか、アリスちゃんが話し掛けて来てくれた。
「えっ、何かって」
あんまり何か、変なこと頼まれても困るしさ。ほら、ほらね?
「スタッフの手伝いよね、別にやりたくなければいいけど」
へ? スタッフの手伝い、か。まあ、暇だから邪魔にならなければやろうかな。
「何をすればいいの?」
スタッフの仕事って言っても、色々あるでしょ? まあ多分、力仕事は得意じゃない。
「貴方に一番ぴったりの仕事よ、夏海さんの応援」
「はあ?」
よく意味が分からなかった為、俺は声が漏れてしまった。夏海の応援って、スタッフそんな仕事すんの?
「あのね、夏海さんは応援すればするほどよくなっていくのよ。だから毎回、私はずっと応援しているの。それがめんどくさくて、貴方を連れて来ているんじゃないの」
正直に言っていただき、ありがとうございます。夏海の応援がめんどくさくて、俺を連れて来てたんだ。
でも確かに夏海は応援とかされてると、凄い頑張っちゃうタイプの子だよね。応援なしとありでは、結構な差が出るかもしれないし。
「それって、拒否権は?」
一応もう一回、確認させて貰った。
「ええ、あるわよ。嫌になったら、いつでも変わってくれていいわ」
夏海の相手は、ずっとしてると疲れるからね。交代制とか、そんなのでどうだろうか。
「じゃあ、引き受けよう」




