ⅣーⅣ
俺がそう言ってやると、夏海は嬉しそうにえへへと笑う。
「ありがとうございます。でもお兄ちゃん、やっぱり夏海は偉いですよね。そんな偉い夏海ですし、お兄ちゃんご褒美に…」
パコーン
俺とアリスちゃんのハエ叩きが、再び夏海の頭で美しいハーモニーを奏でさせた。
どうして夏海はそう、同じ過ちを繰り返してしまうのだろうか。もうちょっと学習すればいいのに、まあその素直さが夏海のいいところという説もあるけど。
「あっ、電車が来たわよ」
再び頭を押さえて睨み付ける夏海には目もくれず、アリスちゃんは電車へと乗り込んで行った。
「ちょっと、アリスちゃん」
俺も夏海のことは気にせず、電車へと乗り込んで行く。
「お兄ちゃんもぉ」
何だかぐちぐち言いながら、夏海も電車に乗り込んだ。
「ん? 夏海、どうしたんだよ」
夏海にしては珍しく、不満そうな顔しているけど…。原因が分からないな、夏海が不機嫌になるようなこと? 何かあったかな。
「夏海さん、どうかしたのかしら」
俺と同じように、アリスちゃんも夏海の表情を不思議に思ったようだった。
「えっ? やっぱり二人とも、叩いた記憶抹消ですか。そうですか、ならいいですよーだ」
えっと、いいですよーとは? 何の話してるんだか、さっぱり分からないしさ。
「可笑しなことを言ってないで頂戴、二日連続で疲れてるんじゃないの?」
ああ、それもあるかもね。俺みたいにほぼ見学ならともかく、夏海はほぼ仕事だったんだから。
今日なんて、俺は本当に見てるだけなんでしょ? 夏海と唯織さんが歌を歌う、俺は観客的なかな? スタッフ役も出来ないからさ。
「夏海は疲れてなんていません、元気モリモリですよ。まあアリスちゃん、この話は飽きたので終わりにしましょう。それよりも、今日って何をやるんですか?」
飽きた…か、確かにそうだな。んで今日何やるってのは、俺の方が聞きたいところだな。
だってさ、夏海は歌うんだろ? 俺は聴いてるとか応援してるとか、どうすればいいか難しくね? 応援って言ったって、夏海と唯織さんで歌ってるとこの邪魔するわけにはいかないしさ。
「歌を撮って、序でにミュージックビデオまでやるわ。でも今までに比べれば、全然楽な歌でしょう?」
いや、今まではどんな歌だったんだよ。
「楽な歌って?」
意味が分から無すぎたので、遂に俺は口を開いてしまった。




