ⅣーⅡ
「それで夏海、何で怒ってたんでしょう。まあ、忘れてしまったのでいいですよね。それに夏海は、お兄ちゃんと仲良しが一番です」
そう言えば、夏海はどうして怒ってたんだろうな。まあ本人だってそう言ってるし、別にどうでもいいさ。
「ごちそうさまでした!」
元気に言って夏海は、お皿はさっさと片付ける。そしてお皿を食洗機に入れて電源を入れてから、洗面所に向かった。
手際良すぎて何も出来なかったけど、それくらいは俺がやるさ。暇になってしまった俺は、父さんのソファーに座ってボーっとしていた。
どれくらいボーっとしていただろうか、ピンポーンと言う音で俺は意識を取り戻した。そんなこと言ったって、五分くらいしか座ってないと思うけどさ。
「アリスちゃんが来ちゃいました。お兄ちゃん、行きますよ」
夏海はドタバタと玄関を開け、飛び出して行った。俺も何とか立ち上がり、バックを肩に掛ける。そして急いで靴を履き、家に鍵を掛けた。窓は多分開けてないから、もう準備は完璧かな?
「そんなに急がなくていいわ、早めに来てあげたんだからね」
何だか、不機嫌そうだね。アリスちゃん、どうしたんだろうか。
「今日は多分、お兄ちゃんありませんよね?」
よく分からないことを、夏海は言ってくれた。俺がないって何? せめて『ある』じゃなくて、『いる』が良かったな。
「ええ、今日は夏海さんだけだと思うわ。台詞はもう、全部取り終えてるもの。今日やるのは、歌だけよ」
ああ、そうゆうことか。つまり今日は、俺の出番ない。そう伝えたかったんだな、成程成程。
「だったら、俺は何をしてれば…」
ただ撮影の様子を、見ているだけ…?
「そんなの、昨日と同じでしょう? 夏海さんの応援、それしかないわ」
ああ、昨日もそうだったのか。そうだよな、俺は応援だあ。
「お兄ちゃん、今日も夏海頑張りますね! 応援、宜しくお願いします。だって夏海、お兄ちゃんが見てるとヤル気が漲って来ますもん。絶対にお兄ちゃんをメロメロにしてやる、ってね」
そういや俺は、その為に呼ばれてるんだったな。
でもまあ夏海の笑顔を見られるなら、細かいことはどうだっていいじゃないか。兄として、とても嬉しいね。
その後も適当に話しながら、バスに乗り込んだ。
バスの中でアリスちゃんと夏海は、夏海の髪を弄ったり化粧をしたりしていた。えっとその辺のことは、バスの中でやるものなのかな? でもそれで、よく酔ったりしないね。
「ここで降りるわ」
アリスちゃんの言葉で、俺達はバスから降りる。
バスが停まると、今日もアリスちゃんが三人分のお金を払って降りて行ってしまう。アリスちゃん、降りるの早いよ。超カッコいいよ、どうしてくれるの?




