ⅢーⅩ
俺はパンを焼いてマーガリンを塗るだけと言う、簡単な朝ご飯を作り終えた。だって、めんどくさくない? まあ俺だって、いつもこんなのしか作らないわけじゃないぜ? 作るときには、ちゃんと作るから。
「ねえお兄ちゃん、夏海が用意した服知りませんか?」
夏海は下着姿のまま、頭にタオルを乗っけてやって来た。タオルを乗せるのってさ、温泉に入っている間にするんじゃないの? いや普通に、リアルじゃやんないけどさ。
「知らないよ? 見つかんなかったら、何か別の服着れば?」
まあ取り敢えず、早く服を着て貰えるかな? 俺は妹のことなんて、気にしたりしないけどさ。
万が一ってことがあるでしょ? 万が一。下着姿の夏海を見たって、俺は何も思わなかったんだけどね。
「はい、分かりました」
残念そうに不思議そうにしていたが、夏海はリビングから去って行った。
「パン温かいうちに食べたかったら、早く服着て来ちゃいなよ?」
「は~い」
夏海の元気な返事を聞いて安心し、俺はテーブルにお皿を並べた。
「いただきます」
手を合わせてそう言うと、俺はパンを口に銜えた。黙々と食べ続けていると、可愛いピンクのワンピース姿の夏海がやって来た。
でも撮影には、衣装が用意されてるだろ? 私服は別にいいんじゃないのか。
「お兄ちゃん、今見惚れてたでしょう? 夏海見て、可愛いと思ったでしょう」
口に出してないんだけど、それに俺が思ったのは少し違う。
可愛い、ピンクのワンピース姿の夏海じゃなくて、可愛いピンクのワンピース姿の、夏海ってことだ。
「つまりは、可愛いのはワンピースってことになる」
結論を夏海に告げる。
「無茶苦茶です、言い訳です。絶対さっき、夏海のこと可愛いと思いましたよ。いただきます」
そんなこと言いながらだがちゃんと挨拶はして、夏海はパンを食べ始める。
「はいはい、そうだね。じゃあさっき俺は、夏海が可愛いと思いました」
めんどくさいので俺は、夏海の主張を認めてやる。
「いおいえうっ! はんえへふあ」
口いっぱいにパンが入っている状態で言うので、何を言っているのかがさっぱり分からなかった。
「取り敢えず、飲み込んでから喋ろうか」
俺が言うと夏海は、一生懸命噛み捲って無理やり飲み込んだ。急いで食べたら危ないぞ?
「酷いですっ! 何でですか?」
何が酷いのだろう、てか俺何かした?
「何でお兄ちゃん、そんなに棒読みなんですか。プロなんですから、もうちょっと感情を込めることが出来たんじゃないですか?」




