Ⅲ
「夏海の、マネージャーです。名前は飯田アリス、幼そうな顔してますが、一応十五歳です」
アリス、ハーフか何かなのだろうか。
「マネージャーってどうゆうこと? 夏海何かやってたっけ?」
スポーツとかやってる訳じゃあないし……。
「お兄ちゃんに隠してたのは悪いと思ってます。夏海実は、声優やってるんです」
声優? それって、アニメとかに声いれる仕事?
「で、どうしてこの子が家に来たのかも分かってるんだよね?」
俺が夏海に訊くと、夏海は目を逸らしながらもコクリと頷いた。
「分かりました、しかしお兄ちゃんに訊きますよ。……お兄ちゃんは、嫌じゃないんですか?」
嫌? 何がだろう。何か嫌なことでもあったのだろうか。
「だって、これ見て下さい」
夏海が俺に何かを見せてきた。えっと、これは何……?
「台本よ。でもこうゆう仕事を全部断ってたら、仕事なんて何もなくなってしまうわ」
アリスちゃんが説教するような言い方で言うと、夏海は『だってぇ』と子供のように言いながら唇を尖らせた。
「でも夏海さん、きっとお兄さんも喜ぶんじゃないかしら。夏海さんの、楓を聞ければね」
夏海がピクッと少し反応した。そして、アリスの方を見つめた。
「本当ですか? 本当に夏海が楓の役をやれば、お兄ちゃんは喜んでくれるんですか? ああでも、それがきっかけになれば、お兄ちゃんも夏海を大人と思ってくれる筈……」
夏海は何だか危険なことを、ブツブツと唱えていた。
「しかし夏海のそう言う声が、全国の人に聞かれてしまうんですよね。それは、嫌なんです」
いやそれが嫌なんだったら、どうして声優になったんだよ。元々声優ってのは、皆に声と夢を届ける仕事だろ?
「いいや、それだからこそいいんじゃないの。さあ夏海さん、お兄さんの為にもやってくれるわよね。特別に、お兄さんをスタジオに呼んでもいいわ。それならいいでしょう?」
「お兄ちゃんが、来てくれるんですか……。分かりました、それなら夏海も頑張れると思います!」
夏海は行き成り元気いっっぱいの、満面の笑みになった。この顔が、やっぱり夏海なんだよな。
夏海の嬉しそうな笑顔が見れたし、所々聞えた怪しい言葉も流しておこう。