ⅢーⅦ
「いおとの共演? 結構ありますよ。でも初共演した時、実はアニメでだったんですよね」
え? ゲーム専門な訳じゃなかったんだ。こんだけ出演してるゲームがたくさんあるから、アニメには出てないもんだと思ってた。
「ただいまー!」
俺達二人が話していると、玄関を開ける音と元気な野太い声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、泥棒さんかも知れません」
いや、違うと思うよ。そもそも泥棒が、玄関からただいまーって入ってくる? 普通。
「油断大敵です、気を付けて行きましょう」
夏海は部屋を出ると、俺の手を握り締めて階段を下りて行く。
「もしも泥棒だったとして、手が使えなかったら危ないんじゃないかな」
それと階段を、二人で並んで降りたら狭いんじゃないかな。じゃないかなってか、狭いよね。
「おお、夏海! 久しぶりだなー。それと冬樹、勉強はどうだ?」
リビングに入ると、甘えるおっさん的なキモい声が聞こえてくる。声の発生源は、ソファーで筋肉ムキムキの太い腕を組む男性だった。
「えっ、お父さん? お仕事はどうしたんですか」
そう、彼こそ我ら園田兄弟の父親なのだ。
「今日はたまたま、夜の仕事が休みだったんだ。だから本業の仕事が終わったら、そのまますぐ帰って来た」
俺達は父さんが、どんな仕事をしているのか全く知らない。でもそれで夜の仕事って、父さんじゃなくて母さんなら確定だったんだけどな。
でもうちの父さんは結構天然だから、そのまんまの意味なのだろう。夜やってる仕事だから、夜の仕事みたいな?
「お父さんあのね、今夏海とお兄ちゃんも仕事帰りなんです」
幼い子供のように、夏海は笑顔で話し始める。
夏海の中には、反抗期などという言葉は一つもないのだろう。だってこのくらいの女の子が、父さんにべったりって中々なくない? 分かんないけど。
でも保健では、反抗期とか何とか言ってたし。夏海くらいになると、『うちの洗濯物、親父のと一緒に洗わないでくれる?』とか言い出すんでしょ。もっと親に感謝しないといけないよね。
「冬樹も? そうか、頑張ってるな。それで夏海、今度はどんな役やったんだ?」
太く大きな手で、父さんは夏海の頭を撫でる。夏海は嬉しそうに、えへへと笑ってから話し始めた。
「メインヒロインでした! 楓って言う名前の、頑張り屋さんで寂しがり屋な子なんです」
夏海は物凄い自信たっぷりに叫ぶ。でもまあ、凄いことだとは思うけどさあ。
「そうか、凄いなあ。じゃあ冬樹は?」
父さんは体の向きを変え、俺にも訊いてくる。どんな役?
「えっと、主人公の仲間? 最初に死んじゃうんだけどさ…。名前は茂之、だっけな」
何と無くで、俺は父さんに説明する。適当過ぎるだろ。




