ⅢーⅤ
夏海に真実を伝えて夏海の恐怖を取り除きたいけれど、同時に夏海に嫌われたくない。
簡単に言うならば、唯織さんが言っているのはそういったものなのだろうか。
「あ、電話と言えば、今からなーちゃんに電話をかけようと思います。だからそれを見て、なーちゃんが電話に出られないことを知った上でなーちゃんに電話をかけてください。電話を切った後、大好きなお兄ちゃんからの電話に出られなかった事実を知ったなーちゃんは、どう思うのかな。こういうのって、意地悪ですか?」
今でも明るさで誤魔化そうとしているのか、唯織さんは電話を握る。
「これから電話をかけるので、お話し中にお兄ちゃんからもかけてくださいよ。なんなら、電話の音を聞かせてくれても良いんですよ? なんならなんなら、なーちゃんに声を聞かせちゃっても良いんですよ? 匂わせ系はファンに嫌われるって、わかっているんですけど。でも変だね、なーちゃんのこと大好きって、信じてるって言っているのに、決意決めて覚悟決めて、それでもまだこうやってなーちゃんを試そうとしているんですから」
何を返したら良いものか迷っていると、突然唯織さんは笑い出した。
「冗談に決まっているじゃないですか。そんなことして、なーちゃんを取り合うライバル同士である二人が、他でもないなーちゃんを相手に匂わせるようなことをして、なんの意味があるって言うんですか。三人ともデメリットしかないです」
「冗談って、それならそうともっと明らかに冗談らしくしてくださいよ」
「えーーーーーーー、どう聞いたって冗談は冗談だったじゃないですか」
この冗談だという言葉も本気なのか冗談なのか判断が出来なくなってきそうで、なんとも言えなかった。
「わざとなんじゃないですか?」
このままはぐらかされるように、ずっとこのペースに巻き込まれなければならないのはあまりに苦しい。
勇気を振り絞ってそう言うしかなかった。
「なんのことですかぁ?」
「話すんなら、ちゃんと話してください。そうやって遊んでいるだけなら、夏海が待ってるんで家に帰りますけど」
夏海の話を持ち出すのは卑怯だとは思いながら、唯織さんに対して効果的であるのは間違えない。
この状況は、本当は唯織さんの方が辛い立ち位置であるのに決まっているのだから、だからこそ唯織さんだって余裕のふりをしているのかもしれない。
いつまでも振り回されているのも、俺は嫌だし唯織さんのためでもない。と思う。
「あぁ、わかっていますよ。でもだからって、妹を怖がらせているストーカーの正体ですよって仲良くもない親友、つまりストーカー被害に遭っている美少女の兄に話をしなければならない立場にもなって考えてみてください」
なんでこの人は堂々とストーカー宣言を出来るんだ。




