ⅢーⅣ
この愛らしい姿に騙されかけるけれど、それでも誤魔化しきれない彼女の部屋では、俺はどう反応したら良いのか。
不安に思っているらしかったストーカー問題が、これで解決するかもしれない。そうとはいかなくても、かなり進展するのは確かだ。
しかしその犯人が唯織さんだって分かったら、ずっと傍で頑張って来て信頼していて頼っていた唯織さんがこんなことをしているって分かったら、夏海はどうするんだろう。夏海はどう思うんだろう。
安心するかな。悲しむかな。
唯織さんもそういうところが不安になって、先に俺に相談してくれようと思ったんだろうか。
「何度か、お電話を差し上げていますよね」
ぽつりと唯織さんが話題に取り上げたのは、俺が唯織さんに関してずっと疑問に思っていた部分。
恐ろしいなと思っていた部分だ。
「あの電話なんですけど、タイミングとかも含めて、変だなって思いませんでした?」
思い返せば、電話の恐怖以前の問題としてそのとおりだ。
「見ていたり聞いていたりしたんです。でもまあ、なーちゃんと一緒にいないときでもタイミング抜群で不思議だなって思ったことがあったとしたらば、それは才能の問題なので褒めてくださって結構なんですけれど」
戸惑うほどに彼女の言葉はスラスラと軽く出て来るものだから、俺の方が感覚が間違っているかのような気分になる。
見ていたり聞いていたりしていたって、ストーカーその人であることを認めて話しているのだから、その界隈ではそれは当然のことになってしまっているのかもしれないけど。
ストーカー界隈の常識が俺には入っていないからね。
「あの、絶対になーちゃんには言わないでくださいね。ちゃんと自分の口で話すつもりです。でもね、でも一人じゃ駄目だから、多分また駄目になっちゃうから、そのときのサポートをお願いしても良いですか? 都合が良いとは思いますけれど、でも……なーちゃんのことを想う気持ちもあるんです。自分勝手にも、なーちゃんに嫌われたくないだとか、少しでもなーちゃんからの好感度の下げ方を和らげたいとか、そういうところもあります。けどなーちゃんのこと好きだから、傷付いて欲しくないのも本当なんです! 以上、クズ発言を良い感じに言う主人公風心の叫び、でした。どう? 合格ですか?」
どこが本気でどこがおふざけでどこが演技なのかは、相変わらず分からない。
いかに唯織さんが演技派の役者であるかを知ってしまっているから、尚更、彼女の言葉が信じられそうにないのだ。
本気は感じ取れるけれど、真意はどこにも見えなかった。




