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唯織さんはゆっくりと、深く深呼吸をして、口を開いてまた閉じた。
言おうとしてまたもキュッと口を噤んだ。
「どこで出会ったのかというのは想像が付くと思うんですけど、はい、なーちゃんとはスタジオで会いました。初めて共演をしたとき、なーちゃんは小学生だったんですけど、あの可愛さは異常ですね。もしかしてなーちゃんの兄ってことは、あの可愛さを知っているということなんですか? ねぇ!」
いきなり唯織さんに迫られて、襲われるんじゃないかと思った。
急に怒鳴られると怖い。いや、普通に怖い。相手がどんなに美少女だって怖いと思う。
「ま、まあ、知っています。夏海は可愛いですから、そこはわざわざ説明してくださらなくても……」
「そういえば、出会った頃はもっとなーちゃんに痛々しいツンデレ対応だったというか、本当のなーちゃんの可愛さを理解しておらず、あんなに健気に愛を注いでいたなーちゃんの愛に応えようとしないという人間的に\(^o^)/オワタなことしていましたよね。まさかなーちゃんと何かあったんですか?」
敵意がすごい。
唯織さんが俺のことを信頼してくれて、最初に相談する形で打ち明けてくれた。こうして話してくれている。そんな勘違いは淡く砕け散った。
何も唯織さんが夏海が好きなのは変わらないどころか、驚くほどの唯織さんの愛を俺は見せられている訳なのだから、彼女の敵意が消えようはない。
むしろ今まで以上に周囲に気遣わずに剥き出しに出来るくらいだもんね。
怖がらないように無理して自分を納得させた。
「何もありませんよ。夏海が仕事をしていることも知らなくて、現場にいる彼女の姿を見ているうちに、先輩として尊敬する気持ちも湧いたんです。妹であることとは別にそう思ったから、あとバイトもしたことがなかった俺が仕事を始めて、少しくらいは礼儀を覚えたんだと思います。それだけですよ」
暫く舐め回すように俺のことを見て、唯織さんは舌打ちをした。
「ふぅん、そうですか。ま、良いでしょう。可愛いなーちゃんに惚れて、惚れて、ガチ惚れして、そうして事務所に頼み込んでショコラティエの話までいったりましたよそりゃもうね。中学生になって少し成長したなーちゃん、その隣にいられる幸せで昇天しながら活動してきました。ラジオも始まって、あ、そういえばゲストに来たことありましたよね。いろいろな話をなーちゃんから聞けるようになりまして、残念ながらお兄ちゃんがお兄ちゃんが言うばっかりでしたけれど、それでも嬉しかったものですよ」
口にしなくても伝わるくらい、夏海のどんな姿を想像しているのか、幸せそうに頬を緩ませていた。




