ⅡーⅩ
どこが本気でどこが冗談なのか。
天才演技派声優め、判断が出来ようがない。
「正直、正直に言ってください。犯人は誰だと思いますか? 気遣いは必要ありませんから、正直に思ったように言ってくれて構いません。因みに、犯人は知っている人ですよ、皆が……知っている人です」
「唯織さんには犯人が誰だか分かっているのですか。そうか、それで俺を呼んだのですね」
納得してそう言ったのだが、小さく彼女は首を横に振った。
「いいえ。犯人が分かったから呼んだというのは、少し違います。なーちゃんのストーカーが複数人だった場合には解決へ導けるか分かりませんけれど、少なくとも一人は確実です。……その一人をどうにかしたらば、なーちゃんを不安にさせているものがなくなるのなら、良いですね。それで、質問の答えについては、どうなんですか」
犯人が誰だかということだろう?
夏海とは一緒にいるつもりなのだけれど、その気配を俺は感じ取れていないし、犯人の目星なんて付いている訳がなかった。
自分のことでいっぱいいっぱいでいた間に、唯織さんはその犯人を特定するまで至っているというのに。
それどころじゃない。
犯人はもっと前から分かっていて、その証拠を掴んだといった、それくらいの様子じゃない。
今がどの段階なのか知れないが、犯人判明よりも先に進んでいることは間違えなさそうだ。
「さあ、誰でしょう。皆が知っている人ということは、俺も夏海も、そして唯織さんも知っている人という訳ですよね」
多分まず夏海は頼ってくれただろうに、兄として情けない。
「今、ここにいますよ。だから今この瞬間でもなーちゃんが何者かの視線を感じ怯えなければならない目に遭っているとしたら、それは複数人の犯人がそこにいるということになりますね」
唯織さんの欠片ほどの温かさも感じられない、氷よりも冷たい声に背筋が凍った。
驚いて彼女の方を見れば、更にこれまた冷たい表情で彼女もこちらを見てくれる。
「本当に、分かりませんか?」
再び彼女は問う。
分からないことを彼女は軽蔑しているのかもしれない。
そこまでとはいかないにしても、彼女はこの兄をどう思っていることだろう。
けれど、考えたって分からないものは分からない。
「すみません、全く。そもそも、今いると言っていますが、今のその視線を感じることも出来ていないくらいです」
「そんなことはありません。今は感じられている筈ですよ」
どうしてこうして断言が出来るのだろう。
擦れ違う人はいるけれど、それらしいような人は見受けられないんだけど……。




