ⅡーⅨ
くだらない話をするつもりで俺を呼ぶようなことはありえないのだから、電話をして来た時点からどんな話をしてくれるものかと思っていた。
十分に覚悟はしていたつもりだったのだけれど、それでも唯織さんがあんまりに覚悟しろ覚悟しろと言ってくれるものだから、それも揺らぎ出している気がする。
これから戦場に連れ出されるくらいの気持ちだ。
「時間があるんだったら、歩いて行こうと思います。歩いている間に、全部、話しちゃいましょうか。たぶん、家を見て、部屋を見たら、ビックリしちゃって、話どころじゃなくなると思いますから。だから、先に言葉で伝えちゃおうと思うんです。ちょっとずつの方が話しやすいと思いますし」
家や部屋を見て、どうしてビックリすることがあるのだろう。
本当に唯織さんには覚悟が必要ということなのだろうな。
少しずつ話を進めているようでもありながら、ずっと本題は同じところをうろついているばかりで、結局話しているのは微妙な冗談と嘘だ。
これから俺は何を言われるのだろう。
本当に怖くてならない。
「まず、ストーカーの犯人なんですが、見当は付いていますか? というか、実際になーちゃんにストーカーがいると思いますか? あれだけ可愛い子ですし、なーちゃん本人は気付いていないようですけど、SNSをパトロールしていると気持ち悪いファンとかもいますから、ストーキングされていてもおかしくはないと思うんですけど、兄としてはどう思うのか聞かせてください」
突然意見を求められるとは思わなかった。
答えによって怒られるとかはないと思って大丈夫なんだよね。
もうこの人の一つ一つが怖い。無理無理、怖い。
「ストーカーなんていないで欲しいとは思いますけど、でも、まあいるんじゃないかと思います。夏海自身が感じたと言っているんですし、唯織さんも言っているように夏海は可愛いですからね」
「そう、なーちゃんは可愛いんです。可愛いんですよ。変な虫が付くことだって考えられますし、ストーカーだって、何人いたっておかしくないくらい、可愛いんです。下賤の者どもはとてもとてもなーちゃんのお姿を投資もしないで見るだなんて烏滸がましいことだし許されないことです。だから、実際にストーキングが可能な人なんて少ないというだけで、犯罪予備軍はいくらもいると思うんです」
本気で言っているとは思いたくないことだけど、これはどっちなんだろうな。
冗談も本気の顔で言うから判断が出来ないんだよな。
ありえないようなことを言っているけど、実際、妹もこういったことを言いそうなものだったし、それがファンの間に広まってしまっているものだから、あまり何とも言い切れない。
大袈裟なただの例えではあるにしてもね。
それに、地味に気になる息継ぎなしでのこの語りだからなぁ。




