ⅡーⅧ
「連れては行きますが、家の場所をSNSで公開するとかは止めてくださいね。売名には最高かもしれませんし、小分けにして売れば儲かるかもしれませんけど、そういうのは困りますから」
また冷静全開で、思い切り真顔で言われたけれど、これも冗談なのだろうか。
まあ、冗談じゃないなんてことはないか。
「信頼出来る相手だから、仲が良いんだから、親友だから、だからだからって教えるのもなしですよ。家の場所は企業秘密なんですから、誰にも教えちゃいけませんよ」
口を開いたところで、更に強く唯織さんに言われてしまった。
「教えませんよ。企業秘密って言うのは、意味不明ですけれどね」
怯えているようなところは覆い隠して、彼女が今のところは冗談を言っているのだと信じて、語尾は弱くなりながらもツッコミのようなワードだけでも。
だけど強くはいけないよね、唯織さんの放つ空気が重過ぎる。
「はは、そうですか? 因みに、なーちゃんも招いたことのない家ですから、重く考えておくんですよ」
「え?」
「嘘です」
聞き返したら、一瞬で嘘だと明かされてしまった。
上手に嘘を吐けとは言ったが、なんでもないようにずっと真顔のまま言ってくるものだから嘘だとは思えないだろ。
こんなに真顔で「はは」と笑う人見たことない。
「綺麗な家ですから、そこは心配しないでくださいね。むしろ家がどれだけ綺麗であるかを、覚悟しておいた方が良いと思います」
家がどれだけ綺麗であるかを覚悟するとは、どういう意味なのだろう。
何に覚悟をさせているんだ。
話をする覚悟をしているのだと唯織さんは言っていたくらいだし、こちらとしても心の準備をさせられて、話を聞く覚悟もしているのに、家の綺麗さにまで覚悟をする必要あるのかな。
ボケなのか真面目に言っているのか、判断が難しい。
「本当に綺麗ですよ。ですから、汚さないでくださいね」
「そりゃあ、あえて汚そうとは思いませんけど……」
俯いた俺に唯織さんの楽しそうな笑い声が聞こえた。
驚いてそちらを見れば、変わらない究極的なまでの真顔、少しもクスリともしていない。
マイク前だって笑うときは笑顔で、こんな表情で笑う姿見たことないけど?
「こう見えて潔癖と言われることがあるんですよ」
どの部分が冗談なんだろうか。
「これは嘘でもないです。あ、時間ってどれくらいありますか」
思い出したように尋ねてくれる。
予定まで確認してくれたし、ここで時間の確認をしてくれたって、どこまで時間を掛けるつもりなのだろう。




