ⅡーⅣ
多少の間があって、意を決したように彼女は話し始めた。
『ストーカー被害のようなものを、なーちゃんに相談されました。きっとなーちゃんのことですから、先に大好きなお兄ちゃんに相談していると思ったのですが、違いますか?』
唯織さんの言葉に思い出す。
あれから何も言ってこないので、落ち着いたのかと思っていたけれど、夏休みの初め頃だかに夏海に相談された。
心配はしていたけれど、彼女が明るく笑うものだから、自分の方に気を取られていたこともあってあまり何も出来ていなかった。
それで夏海は唯織さんに相談したという訳か。
「はい。相談されたことがあります」
どれほど怒られることだろうと思って、怯えそうになりながらも正直に答えた。
最近のことならばともかくとして、数か月も前に相談されていたということを知られたら、唯織さんは嫉妬もあって憤慨することだろう。
上から目線なことではなくて、不甲斐ない俺を怒る中に嫉妬心が含まれていることも唯織さんの場合は間違えないだろう。
しかし待っても彼女の怒りは来なかった。
最初から怒鳴られるとは思っていないし、静かな怒りをぶつけてこられることだろうと、それで脅されでもするだろうと思っていたのだが、聞こえてくるのは彼女の大きな吐息の音ばかりだ。
なぜだか、かなり動揺しているように息が乱れている。
『なーちゃんは、やはり不安そうでしたよね。それなりに明るく言われましたが、冗談めかして言われましたが、本当に悩んでいるのはなーちゃんの専門家として察せます。大好きな! お兄ちゃんには、どういった様子でしたか?』
大好きなお兄ちゃんという言い方には、それ自体棘を感じられるものであったが、大好きなを強調されると愈々恐怖だった。
なーちゃんの専門家という主張については、今更ツッコまない。
「真剣な表情で、不安そうに言われました。もういかにも深刻といった様子で、それで、警察への相談を進めてみました。勘違いかもしれないと言っていたので、証拠もないのでは取り合って貰えないかと思って、それこそ唯織さんにも相談するよう助言した覚えがあります」
普段は明るい夏海だが、時折、不安に満ちた表情を見せる。
話が終わればすぐに笑顔を取り戻して、唯織さんの言葉を借りるなら、冗談めかしたように笑われてしまった。
『そうだったんですか。……そうだったんですか。すみません、思ったよりも信用されていたようで、驚いています。やはり電話で話すべき内容ではありませんから、直接、会って話を出来ませんか? 仕事場以外でなーちゃんも介さず会うことは不本意ではありますが、やむをえません』




