ⅡーⅢ
魔王は唯織さんの体を乗っ取ってしまったのだろう。
『実は、お伝えしたいことがあるのです。なーちゃんを傷付けない為に、これは必要なことなのです。お願いを聞いてくださいますね?』
轟いていた悪魔の笑い声からコロッと変わって、愛らしい幼女の甘えたとも取れる声が電話越しに聞こえてきた。
どうして先程の雰囲気からここへ持ってこられたのだろうか。
有無を言わせない彼女の威圧的な態度にもう俺は戸惑うのみだ。
『バレてしまいそうだから、その前に自白しようと思うのです。なーちゃんにバレてしまわないように、シスコンに伝えて、残念ながらブラコンな彼女を真実から遠ざけて欲しいのです』
伝えたい意味がさっぱり分からなかった。
つまり唯織さんは何か悪いことをしてしまっていて、それが明るみに出てしまいそうだから隠蔽を手伝って欲しいということなのだろうか。
夏海を傷付けない為だとか言っているけれど、そうだとしか思えなかった。
真実から遠ざけるとは、バレてしまわないようにとは、何をどういうつもりで言っているのか。
大雑把に推測はしたが、やはり何が言いたいのか伝わってこない。
「面倒ごとなら一人で」
『お願い、聞いてくださいますね?』
切ってしまおうかと思ったところだったのだが、やはり強く彼女の声で上書きをされてしまうと、動きなど取れなくなってしまうのであった。
返事さえ出来なくなってしまうのであった。
『駄目なんですか? ねえ』
これで駄目と答えたなら、彼女は怒り出すに決まっている。
怒るだけなら良くないけどまだ良い、問題は彼女が何を口走り出すかだ。
夏海には優しくて過保護な彼女だけれど、その分ともいうくらいに俺には当たりがきついから、何をされるか分かったものじゃない。
容赦ない悪道に走るに決まっている。
俺だって唯織さんが立派な人だとは知っているし、尊敬もしており憧れるに値する技術もあって人間としても良く出来た人だと思う。
そうなのだけれど、夏海のことが絡むと非常識に思えた。
電話を掛けてくるくらいのことしかしていないが、その恐怖からだろうか、まるで唯織さんがとんでもない人物かのように思えるのだ。
たとえば、夏海を食べようとしている、のような。
「情報が少なすぎますから、今の段階ではどちらとも言えないでしょう。このまま説明をしないつもりなら、お願いとやらに応えようとは思えません」
天才役者の実力は確かなもので、電話越しに響いてくる声から恐怖は心を支配するのに、それでももう返事も出来ないようではなかった。慣れがあるからというのも大きかろう。
彼女が望む省エネをどこにどう繋げるつもりなのか、考えてみてから笑ってしまう。
いつの間にやら言い方に騙されそうになってしまっていたが、可愛いふりをして、唯織さんは結構なことを俺に押し付けようとしているのだ。
優しい彼女を思い出して、騙されそうになるのもまた怖かった。




