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「そういえば、娘がステージに立つのはもう見慣れた姿だけど、息子までがそうなのよね。まだその場で見たことはないから、次のイベントは絶対にお母さんも行くからね」
アリスちゃんがいなくなってしまったので、渋々部屋に戻った瞬間、母さんに捕まった。
良い子良い子っていう年齢じゃないから!
久しぶりだから分かっていないのか、年齢を理解した上で行っているのか。
どっちもありえそうだからなぁ。
「ちょ、狡いです! 夏海もお兄ちゃんに抱き締めて貰いたいですっ」
「どうしたら抱き締めているように見えたのぉ!」
母さんから救ってくれたと思ったら、今度は夏海が飛び付いてきた。
捕まって結局身動きが取れないままだ。
「せっかくだし、家族集合なんてあるものじゃないから、今からどこか遊びに行くか?」
「楽しそうですね! ですが、もう時間も時間ですし、それに夏海、今日はいろいろあってちょっと疲れちゃいました。気持ちの整理も付かないので、また今度、冬休みのお仕事がお休みの日じゃ駄目ですか?」
ふざけたことを言い出した父さんに、俺を捕まえたまま振り返って、珍しく夏海が真面なことを言った。
かなちゃんとのこともあるし、いろいろとあり過ぎて、全く追い付かないのは俺だって、きっと俺の方がそうだ。
好きだ好きだって言ってくれた夏海への想いが、今更になって変わってしまった。
美少女の妹を持つ普通の男子高校生だった俺が、声優として働き始めてしまった。
話したこともなかった他クラスの同級生の子が、師匠で友達で大ファンになった。
滅多に一緒にいられなかった父さんがここにいて、もう会えないかもしれないと、記憶の薄れ始めていた母さんもここにいる。妹と俺と、ここにいる。
むしろ、表面上だけでも冷静なふりを出来ていることを褒めて欲しい。
「今日は容量オーバーだな」「今日は容量オーバーですね」
ぴったり俺と夏海の声が合った。
学校だってあるんだし、仕事だってあるのだから、家で時間があれば勉強か台本読みかをして、無駄にしたくないという思いがあった。
ダラダラしていた俺が働くようになって、意識が変わったんだろう。
昔から夏海はそれを続けていたのだと思うとやはり尊敬する。
いきなり効率良く努力出来るよう変わりはしないから、尚更、今は時間の許す限り頑張りたいと思っているんだ。
端的に言えば疲れたってこと!
「そうね。今日は疲れたから、このタイミングで今から遊びに行くっていう意見は、ありかなしかで言うと論外だよね」
とどめを刺すような断り方を母さんがするものだから、確かに気が利かない考えの浅いことだと気付いたのか、父さんはダメージのあまり倒れ込んだ。
面倒だから放っておこう。




