Ⅷ
ここが普通の場所であり、ここにいるのが普通の人であったら、シスコンの連呼はどう思われるかというものだ。
しかしここはそうではない。
「妹が夏海なんだったら、それが当然のことだろ。だって可愛いし」
「そうよね、これだけ可愛い子がいるんだったら、好きにならない方が感覚が狂っているってものよ」
父さんも母さんもこんな調子である。
「え、アリスちゃんったらそういうのは止めてくださいよ。夏海は本当にアリスちゃんのことを可愛いって思ってるからそう言ったんで、だから、お礼のお世辞とかはいらないんです。お兄ちゃんのことを夏海が好きでいる、それだけでも十分ですもん」
意外だったのは、そう言って夏海が照れたことだった。
彼女も両親と同じようなことを自分で言うかと思っていた。
「そういうつもりじゃないわ。冬樹さんがどうしようもないシスコンだと思うのは私の本心。まさか、夏海さんに私の言葉を疑われるとは思わなかったわね。嘘を吐いていたのを恨んでるの?」
必ず答えを一つにするよう、アリスちゃんは言ったのだろう。
夏海が恨んでいる訳がないことを、彼女は知っているに決まっている。
「どうしようもないシスコンって……。だってお兄ちゃんは夏海のことが好きって、大切に想ってくれているって、それは分かるんですけど、でもそれは違うじゃないですか」
「違くないよ、夏海。話が終わらなくなるから、話を戻そうか」
戸惑いだけじゃなくて、寂しそうにも見える夏海を見ていたら、膨れた顔ばかりしてはいられなかった。
だけどこの場では何を言おうともシスコンシスコンと言われるだけに決まっているから、適当に流したようなふりをしたが、きっと夏海にだけは伝わったと信じて微笑んだ。
にこっと夏海も笑ってくれた。
「そうですか。そうですね。で、えーっと、なんの話をしていたんでしたっけ?」
とぼけた夏海の笑顔は、いつもの可愛らしい笑顔だった。
「どうしてこんなに美少女ばかりがここに集まるのかって話よ。性格イケメンだし顔もそれなりにイケメンって二人に比べて、女性陣のクオリティーが高過ぎると思わない?」
話を戻そうと言っているのに、ちっともそのつもりはないようで、それどころか邪魔しかする気がないようで、相変わらず母さんは適当なことを言う。
「性格イケメンだし顔もそれなりにイケメンって、それだと男性陣も中々のクオリティーってことになるじゃない。まあ、智秋さんの旦那さんと、智秋さんの息子であり夏海さんの想い人なのだから、これでも足りないっちゃ足りないくらいだけれどね」
ツッコミを入れてくれて、軌道修正をしてくれるかと思ったアリスちゃんも、なんと逸れた話を伸ばそうとする。
進めようという話はそっちじゃない。
「もう、俺も何の話をしていたのか忘れて来そう……」
思わず呟いてしまっていた。




