Ⅲ
もしかしたら、夏海だって内心では俺のように思っているけれど、励まそうと気を遣ってくれているのかもしれない。
こういったところで、妹がいかに大人であるか知っている。
「まあ、実力があるのも確かよね。でも社長のことなく、二人ともが仕事をこうも早く得られたかといえば、そんなことはないでしょう。きっかけはどうあれ、実力は本物なのだし、今となっては人気も本物、どこへ出してもやっていけるだろうから、自信と誇りは持って良いと思うわよ」
お世辞を言うような人ではないように思っているので、アリスちゃんに言って貰えるのは、他の人に言われることよりも力を持っているようだった。
大切な夏海に思って貰えて、褒めて貰えることも、勿論それで嬉しいに決まっているが、また違う。
少しどころでなく、夏海は俺に甘いところがある。
言ってくれるのが夏海であるということが嬉しいながら、実際に褒められているかどうかという点において、褒められているかとなると怪しくなる。
何にしても、アリスちゃんが言ってくれているのだし、実際に実力はあると思って良いのだろう。
自信を持ちきれないが、自信にはなった。
「二人とも可愛いし演技派で、さすがはあたしの子ねって感じだから、不安になるところなんてないよ。アリスの言うとおり、ちょっとだけお願いを通して貰っちゃったけど、なつの言うとおり、魅力的なのは間違えないわ。父親の優しさと母親の可愛さを受け継いで、兄も妹も最高のエンジェルね! あたしがプロデュースしなくても、いずれ注目されるのは確実の才能だわ」
ところどころ、母さんの自画自賛が含まれていた。
無駄な謙遜だとか異常な自惚れだとかもなく、本人が客観的にそう考える事実や、それに混じって本心が伝わってくる。
母親の可愛さだなんて、堂々と言えてしまうところは、やはり夏海の母親なのだと思う。
兄も妹も最高のエンジェルか。
「って、そんなことより、きちんと説明しろって言っているんだって。じっくりと話を聞きたいから、とりあえず、お茶でも淹れるね。せっかく丁度帰って来たんだから、父さんも逃げるなよ」
俺が人数分のお茶を用意しに行っている間に、夏海が三人を座らせておいてくれた。
父さんは自分の家なのだし、母さんは家には慣れていないにしても知らない人の下ではない。アリスちゃんは何度もこの家に乗り込んでいる。
誰も遠慮しているような人でもないのだが、あえて夏海は丁寧な案内を執り行ってくれたようだ。
いくら夏海でも、聞き流せる容量を超えていたことだろう。




