Ⅱ
流行っている訳じゃないとしたら、母さんにはなんでやねんを言わせる力があるのだろう。
「ごめんなさい。まだちょっと、話に着いて行けていないんですけれど、つまり、どういうことですか?」
母さん、アリスちゃん、父さん、俺の順に顔を見て、思ったよりも冷静に夏海は質問をするのだった。
戸惑いで固まってしまっていて静かなのだと思ったのだが、そうではなくて、妙に今の夏海は大人びて見える。
妹ではないようだった。
「なつは知らないと思うんだけど、あたしはふゆくんとなつのお母さんなんだよ」
「何を言っているんですか?」
こんなにも夏海が真面に見えたのは初めてかもしれない。
説明を求めたところで、早くも母さんじゃ無駄であることを見抜いたのか、夏海は序でに父さんにもそっぽを向いて、俺の方へとやって来た。
俺だって混乱はしているし、訳分からないけれど、母さんが母さんであることは分かる。
社長だとかどうのこうのは知らないが、彼女が俺たちの母さんであることは知っているのだ。
まずは俺と夏海との間で、認識を重ね合わせることが重要かもしれない。
「実に残念なことに、本当なんだ。彼女が母さんだよ」
同じように不思議な顔をした上で、やんわりと否定してくれることを、きっと夏海は望んでいたのだろうと思う。
そうとは知りながらも、言葉が事実であることもまた知っているから、夏海の味方に付いてあげることは出来なかった。
逃げても事実は変わらないのだし、受け入れるしかない。
俺は母さんが社長であるという事実を。夏海は社長が母親であるという事実を。
深くまではまだ理解が到達していないけれど、いかに強烈なことであるかは、十分に伝わってきている。
予想出来る衝撃の大きさの覚悟を用意すれば良いだけだ。
「それと、ふゆくんは知らなかったみたいだけどさ、なつとふゆくんが所属している事務所の代表取締役社長、だからアリスを雇ってあげてるのはこのあたしなんだ。途中でアリスがボロを出して、勝手にヒントを出したって言うから、冷や冷やしたんだけど、ふゆくん! 残念だったね!」
事務所のごり押しで、ただのコネで、俺は仕事を貰っていたのだということだろうか。
完全には信じきれていなかったけれど、少しばかり、ほんの少しくらいは、自分の実力だというように思っていたのだけれど……。
かなちゃんと夏海に煽てられてしまったのだろう。
「そう、そうだったのか。ちょっと残念かも、ね」
「お兄ちゃんの魅力は本物ですよ。それに夏海は、社長がお母さんだったとしても、だから夏海は実力とは別のところで仕事を貰えたのだとか、そういうようには思いません」
自信を持ってそう言える夏海が、羨ましくてならない。
俺にはまだプロの意識が足りていないのだと思った。




