ⅢーⅢ
そんな俺に何を思ったのだろうか。
暫くじっと静止して、深く考え込んでいるようであった。
「そのおとっ、おこちょ、お言葉をぉっ! そのお言葉を、夏海教の経典に載せてもよりょ、よろしいでしょうかぁぁああああああっ!!」
「……五月蝿い」
プロだとは思えないほどに、短い言葉の中で何度も噛んでいた。
それだけ大声で叫ばれては、零れる言葉は他にないだろうと思うくらい、適切な言葉を返したと俺は思う。
近所に謝って回れと思うくらい、五月蝿かった。
「落ち着いて、もう一回、落ち着いて言ってみてはくれ」
あまりに五月蝿いので、五月蝿いということしか入って来ず、内容は少しだって入って来なかった。
大きく深呼吸をして、むしろ落ち着いていないだろと思うほど落ち着いてから来てくれた。
「先程のお兄ちゃんの名言を、づぉおうか」
「え?」
「先程のお兄つぁあ」
「は?」
「先程のお兄ちゃんの名言を、どうか、夏海教の経典に載せてもよろしいでしょうか。うっしゃぁあ!」
「……はぁ」
何度も言い直して、漸く言えたようで本人は満足げだが、やはりどういうことだか俺には理解が厳しかった。
言葉は入って来たのだが、何を伝えたいのだかがさっぱり……。
「名言って何?」
俺の問いに、当然のように返される。
「命は大切にしろよ。きゃっ、これほどのお言葉をサラッと言えるような方は、お兄ちゃんの他いないでしょう。あまりに素晴らしいお言葉で、気が狂ってしまいそうなほどです」
こんなことを言われてしまったら、無意識に口から零れてしまっていた俺の言葉も、通常の答えであり仕方のないことだと思う。
どう考えたって俺の方が普通の発想だよね。
「既に気が狂っているとしか思えないな。それのどこが名言だよ」
「お兄ちゃんによって狂わされるのなら構いませんっ!」
恐ろしいほどの即答である。
こうなってしまったら、もうどうにも返せまい。
「夏海教とは、唯一神であるお兄ちゃんのお言葉をたくさんの人に広め、人々を極楽浄土へと誘うものです。夏海は唯一神のお言葉を直接お聞きすることの出来る聖職者ですから、人々に崇められているに過ぎない存在であり」
「お、ち、つ、け!」
謎の設定を語り出そうとしていたので、強引に話を遮ることしか止める手段はなかった。
ファンが宗教と化している時点で、恐怖に感じるところは多少なりともあった。
そういう名前のファンというだけなら、まだ納得は出来ることであるが、夏海のファンは本当に宗教的だから怖いのだ。
しかし、彼女の発言が事実だとしたら、完全にホラーなのは俺だ。
俺のファンは別に宗教じゃないっての。
そう思ってから気付く。
自然に、俺は、俺のファンなどと……。




