ⅢーⅡ
俺が才能の塊だというのなら、それよりも、夏海こそそうなのではないだろうか。
言葉にしそうになったけれど、俺はしなかった。
まず、今までの態度があるのに、突然素直に夏海のことを褒めたら、怪しさ全開だ。
次に、俺は夏海が努力をしていることを知っている。
確かに夏海の才能は物凄いものなのだろうけれど、彼女がこれだけ立派なのは、それに彼女の並外れた努力が加わったからなのだ。
俺には夏海の努力を否定出来ない。
「ってそれ、俺の努力は否定されてるってことじゃね?」
夏海に比べれば、俺なんて努力しているとも言えないレベルなのかもしれないけれど、自分なりにいろいろと試行錯誤して頑張っている。
誰にも出来る程度の努力だとしても、俺なりに頑張ってはいるんだ。
思ったまま、口から出てしまっていた。
「え、いや、そういうことじゃありません。お兄ちゃんが頑張っていることを、夏海も知っています。ですけど、お兄ちゃんったら、通常運転でイケメンじゃないですか。それに才能をいつだって感じられる、エリートスーパースターオーラを纏っていますから、ね?」
俺の言葉が聞こえて、フォローをしようとしたようだったが、夏海に諦められてしまった。
ね? って、それはないよ夏海ー。
「そのオーラは、夏海以外の誰かに見えることはあるの?」
エリートスーパースターオーラ、だっけ?
「はい。宇宙に生息している全ての生物、それだけではありません、無機物にだってお兄ちゃんのオーラは見えます」
「じゃあ見えない俺は宇宙に生息している生物どころか、無機物ですらないんだろうね」
自信を持って答えてくれた夏海だが、俺の言葉にまた頭を悩ませている。
一生懸命で素直なところ、可愛いよね……。
じゃなくて、俺は何を考えているんだ! 本当にそれは酷いぞ!
かなちゃんは応援しているって言ってくれたけれど、本当に不味い。このままじゃ兄妹の関係が崩れてしまう。
兄として、それだけは阻止しなければ。
「うぅうんと、まぁ、そうですね。お兄ちゃんは言うならば、神のような存在ですから、宇宙上で唯一であり、特別な存在とでもいうのでしょうか。誰もがお兄ちゃんを敬い、愛し、愛されたいと望んでいる訳ですから。お兄ちゃんの愛を得られるのなら、命を捨てる人すら少なくない。いえ、お兄ちゃんの愛を得られるのに、命を捨てない人などいません」
設定がどんどん大きくなってしまっているようである。
夏海の中の俺は本気で何者なんだよ。
「命は大切にしろよ」
一つ一つツッコむのが面倒で、それだけ言って俺は夕飯の支度を始めた。




