ⅡーⅩ
一体、俺の言葉をどう思ったのだろうか。
何に鼻血を出すほど興奮したというのだろうね。
「なんだか最近は、お兄ちゃんも前のお兄ちゃんとは変わって、夏海、ドキドキしちゃいます。魅力が増したような気がしますし、夏海のことを想ってくれていることも、前より更に深く感じます」
仕方がないから渡してやったティッシュで、鼻血を拭き取りながら、夏海は死にそうな声ながらも理由を報告してきた。
ドキドキしちゃいますって、何を言い出したんだか。
心から喜んでいるようにも見えて、心から何を言い出したんだか、呆れる。
「敏感で、俺のことをよく見てくれてるんだな。さすがは夏海としか言いようがない」
かっこつけて囁いた俺に驚きで夏海は目を見開いた。
「なんて、演技に決まってるだろ? 夏海のおかげで、演技のプロになったからね」
そんなに俺は分かりやすいだろうかと、不安になった。ヒヤッとした。
特に、前より更に深く感じますなどと、今日になって言ってくることが驚きと戸惑いでしかない。
やはり家族なのだし、似てしまっているとしたら、俺は信じられないほど分かりやすいということになる。
自分は違うかと思っていたが、そんなことなかったかもしれないのか。
「え、演技ですか? 狡いですよそんなの……。プロがそういうところで、本気を出しちゃ駄目ですよ。演技でしかないって聞いても、まだ、どうしてもドキドキが収まりませんもの」
鼻血は止まったようだが、胸元を手で押さえて夏海は苦しんでいた。
完全にファンとしか言いようのない反応である。
これは、恋人のものでも、ましてや妹のものでもないな。
「お兄ちゃんは演技指導なんていつの間に受けていたんですか?」
ダメージを受けたままの様子で、それなのにトーンは真面目そのものなのが中々にシュールだった。
それに、トーンは真面目そのものだけれど、ティッシュを詰めているせいで思うように声が出せないのか、それもまた面白い要素として加わっている。
最早、真面目に話しているだけに、夏海の才能であるように思えた。
「演技指導って、習い事みたいな感じでか? そういうのは、特別には受けていないな。現場でいろいろと教わったくらい」
そんな需要がないのに手間だけが掛かる兄を、普通と同じだけの給料を払って面倒を見ても良いと思えるほど、夏海の演技は誰もが欲するところなのだろうな。
普段は真面目にやっているのに、今のように、面白い感じになってしまうというのに。
あんなに嘘が下手だというのに。
やはり誰もが必要だと思うほど、夏海の演技は上手で、人を惹き付ける魅力というものがあるのだ。
一緒にいることが増えたから、もう分かってしまったんだよ。
夏海の魅力。




