ⅡーⅨ
心から愛しいと思えることに、悪いところがあるだとは思いたくない。
けれど、俺たちは兄妹なんだ。
兄妹として、それ以外の感情を抱くことは、許されない。
「誰とって、別に横島さんとだよ。何をそんなに怒っているの」
まさかこの場面で、かなちゃんだなんて言えようがない。
かなちゃん本人がこの場にいたら、強要されてしまうかもしれないけれど、その様子ならば夏海だって嫉妬はしないだろう。
というか、俺がいないところでも二人で会うくらい仲が良いみたいだし、疑ったり嫉妬したりしないよねさすがに。
だってかなちゃん、あの感じだし。
そうは思っても言えなかった。
「女と遊び歩いていたってところは、事実であると認めるのですね。ですが、清々しいほど下心全開な人ですからねぇ」
「お前が言うか」
つい口から本音が漏れてしまったが、夏海はサラッと流してくれる。
聞こえてはいるだろうけれど、きっと慣れてのことだろう。
「学校帰りにお兄ちゃんがこの時間まで、っていうのが気になるところではありますが。相手が相手ですから、浮気認定とはいきませんね。許可です」
うん。いつも通り、ツッコミどころ満載な台詞である。
何を言っているんだろうね、夏海ったら。
「彼女なんていないんだから、浮気も何もなくないか? それに、妹に許可を得なければならない、その理由を俺は理解が出来ない。心配してくれるのは嬉しいけれど理解不能かな?」
心配してしまったのは確かなのだ。心配してくれたのは確かなのだ。
それだから、あまり厳しいことを言っては可哀想かと思って、精一杯に言葉を選んだつもりだった。
俺としてはそのつもりだったんだけど、夏海が更に怒り出してしまう。
「夏海はお兄ちゃんの彼女です!」
「いや、夏海は俺の妹だね。彼女というのが恋人のことを指しているのだとしたら、断じて違うかな」
好きな気持ちに気付いてしまったからに、今までと同じようにというのが辛かった。
敏感な夏海に覚られないようにしなくちゃだからね。
「妹は誰よりも兄を想い、兄は誰よりも妹を想う。それが人類の姿です。ですから、妹に許可を取らなければならないのは、当然のことと言えるでしょう」
最早、本気で理解不能である。
兄妹の仲が良く、想い合っているのは、確かに良いことだろう。
ただ当然のことの辺り、何を言っているのかちょっと……。
「なんかもう、大丈夫。夏海に常識を求めた方が間違っていることを、今になって思い出したよ。心配してくれたのは本当に嬉しいよ。ありがとう。心配を掛けてごめんね」
「お兄ちゃん……」
掠れた声で小さくそう零れ、鼻血を出して夏海は倒れた。




