ⅡーⅤ
どういった呼び方にしたら、ちゃんとお互い様な感じになるのだろう。
これってもしかして、難易度が物凄く高い感じじゃない?
「それじゃあ、かなちゃん、なんてどうかな?」
いっそ一週回ってと思い、そんな提案をしてみる。
メス豚呼びを希望しているような人が、呼ばれて恥ずかしがる呼び名なんて、見つかりようがないと思ったからだ。
彼女にとっては、他人行儀な横島さんが、何より嫌だったのではないだろうか。
今になってそのことに気が付いてしまう。
呼び方を変えること自体が横島さん得仕様というトラップか。
「おっと予想外の展開! 本当にあたし、ゆきりんにかなちゃんとか呼ばれちゃうの? ねぇ、ねぇこれ来てる! キターーーーーー!」
「周りのお客様のご迷惑になりますので、もう少しお静かにお願いします」
視線が痛いので、騒がしい横島さんを落ち着かせる。
元々は彼女だって平気で迷惑なほど騒げるタイプでもないのだろうし、俺の注意で正気に戻り、申し訳なさそうに窄まっていく。
しかしその表情は、恐ろしいほどの笑顔だ。
それもただの笑顔ではなく、にやけた笑顔である。
「あたしったらどうしよう。だってね、あたし本当に、本当のゆきりんの友達みたいなんだもん。それが嬉しくって、もう、泣けてくるよ……」
喜んでくれるのは良いのだけれど、俺としては友達のつもりでいたくらいなのだから、友達みたいだなんて言われて喜ばれても、という感じである。
多少の距離はあったろうが、十分に友達と言える親しさだったと思う。
今までの関係は、横島さんにとってどういったものだったのだろう。
「あのさ、横島さん」
「かなちゃん」
本人に訊ねてみようとしたところ、威圧的な笑顔で訂正を施された。
話そうとした段階で、呼び方を変えるのを忘れてしまったとのこと。
自分で言ったことなのだし、そうするつもりではあるのだけれど、最初のうちはどうしても慣れないから許して欲しいものだ。
横島さんは、じゃなくて、かなちゃんは。
かなちゃんは元から俺のことをゆきりんと呼んでいたらしいのだから、そう変えるのは、どちらも慣れたものだし楽なものだろう。
むしろ、今までの方が呼び方を使い分けて大変だったくらいでしょ?
でも俺はかなちゃんなんてさっき思い付いて、呼んだことがないんだから、慣れなくたって仕方がないと思う。
うん、覚えよう、慣れよう、かなちゃん。
「あのさ、かなちゃんは、本当に今初めて、俺のことを友達だって思ったの? 正直、俺はずっと友達だと思ってたんだけどさ」




