ⅡーⅢ
「冬樹さんが笑ってくれて、あたしは嬉しいです。その笑顔は、元気になった笑顔でしょう? これで、辛そうな微笑みなんか浮かべて、傍で見ている夏海様まで苦しめるようなことなんてなくなりますよね?」
園田兄妹のことは、全部お見通しというのが、横島さんの謎情報ツールの実力なようだった。
心配してくれるせいで、夏海の表情が曇ってしまったことも、当然のように横島さんには知れれていたのだ。
一緒にいる時間なんてそうないのに、それだけ彼女の気持ちが強いということなのか。
想ってくれているのだ、だって彼女はファンだから。
「ふふっ、序でに、世間話でもしていきますか? 夏海のことが心配だから、俺は今すぐにでも家に帰るよ。待ってろよ、夏海っ! なんてこと言うタイプのシスコンお兄ちゃん系主人公とは、違っている冬樹さんでしょうから、別にそれくらい付き合ってくれますよね」
……え、あれ、ファンだよね?
右腕ががっしりと確保されて、迫力のある笑っていない笑い顔で迫られた。
威圧が半端じゃないんだけど。
「さすがに逃げはしないし、掴むことはないだろ。悩みを相談して、アドバイスまで貰って、かなり十分なくらいだけど、気分転換に世間話でも出来たらもっと良いからね。だからとにかく手を離して」
意外なくらいあっさりと素直に手を離してくれた後、横島さんはにやりとした笑みで体を乗り出す。
何を企んでいるかは知らないけど、今の俺が持っている、彼女への感謝の心があってすれば、何を言われたって受け入れられる気がする。
言われた段階では、なんだって流せる。
それくらい、今の俺は横島さんを尊敬し、感謝している。
「お願いします。もっとあたしは冬樹さんと仲良くなりたいのです。ファンだから近付きたいという、下心が全くないのではありませんが、あたしは友人として仲良くなりたいのです」
「……え?」
思ったよりも普通の答えで、逆に驚いてしまった。
「駄目でしたか。やっぱり駄目だったのですか。ごめんなさい、そうですよね、ごめんなさい」
俺の雰囲気を否定と取ったのか、謝りに入った横島さんを慌てて止める。
そして普通に言おうとしたが、なぜだか照れが入って戸惑った。
友人として仲良くなりたいだなんて、言われたことがないからな……。
普通の告白とかもされたことがないから、こういう改めて言われるのに慣れていなくて、それに弱いのだろうな。
友達くらいはいるけど、それっていつの間にか仲良くなっているものだし。
愛の告白のような視線を向けて来るなぁ!
「いえまさか。敬語なんて止めて、横島さん、俺も横島さんともっと仲良くなりたいと思うから」




