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兄妹だって、愛があるんだから大丈夫ですよね!  作者: ひなた
家族だって、離れていたんだから仕方ないですよね!
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「お仕事、忙しいのですか? 最近の冬樹さんは、お疲れなように見えます。ファンとしては、冬樹さんのお声を堪能したい気持ちもありますが、体調とか……とにかく冬樹さんの健康が何よりも大切です。だからっ、余計なお世話かもしれませんが、無理はなさらないで下さい」

 いつもと変わらないように装っていたのだけれど、それで騙せるとは思っていなかった。

 だけれど、俺のことを気遣ってくれているのか、邦郎は何も言わないでいてくれたんだ。そのまま帰れると思った放課後のこと、横島さんに呼び止められた。

 本当に不安そうな声色だった。

「無理なんてしてないよ。心配してくれてありがとう」

「そんなことでっ! そんな笑顔で、誤魔化される訳がないです! 皆、気付いているのに、見ていないふりをしているんです。だけど、だけどあたしはそんなことしたくありません! お節介でも、出しゃばりでも、冬樹さんの役に立ちたいんです……っ! ずっと元気を貰ってきたから」

 そう言ってくれた後で、周囲の視線を集めていることに気が付き、横島さんは深く俯く。

「大声を出してしまってごめんなさい、あたし……」

 俯いて、彼女は走り去ってしまおうとした。

 俺は思わず、彼女の手首を掴んで、引き止めてしまっていたのだ。

 放っておいてくれるなら、これで解放されるなら、俺としてはそちらの方が良いに決まっている。

 横島さんに迷惑は掛けたくない。心配は掛けたくない。

 それなのに、彼女の言葉が嬉しくて、手首を掴んでしまっていた。

「冬樹さん?」

「ごめん、ありがとう。横島さんの気持ちが嬉しいのは、本当だから、ありがとう……ありがとう……」

 何を言ったら良いか、何を言うべきなのか、言葉の整理も出来ていなくて、そのままに口から溢れ出ていた。

 そっとしておいて欲しいくせに、寂しがっていたのか。

 俺はどこまでも面倒な性格なんだろう。

「あたしも、冬樹さんにそう言って貰えて、とっても嬉しいです。お悩みとかありましたら、相談に乗ります。そう言いたいところですけれど、あたしなんかが、ファンであるあたしが、冬樹さんの相談に乗るだなんて無理なことですよね」

「いいや。むしろ仕事の相談とかの方が、夏海に乗って貰えるから、他の人に相談する必要がないよ。俺のことを想ってくれていて、それでいて、仕事場での俺じゃなく学校での俺を見ている。横島さんほどの適任はいないよ。俺、友達少ないし、邦郎に相談するのは照れくさいからさ」

 俺の言葉で、俯いていた横島さんの顔が、ばっと上がってまっすぐ俺を見てきた。

 眼鏡の奥の彼女の瞳は、何を映しているのだろう。

 その奥に、俺だって知らない等身大の、本当の俺の姿が映っているような気がした。

 まっすぐな彼女の瞳だからこそ、映し出す本心があるような気がした。

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