Ⅴ
次の現場で、夏海と一緒にアリスちゃんに訊ねてみたのだが、見事にとぼけられてしまった。
「アリスさん」
「あら、どうしたの? アリスちゃんって呼んでいたのに、突然、さんなんて呼び方を変えちゃって」
いつものような笑顔で、彼女はただ笑うだけ。
だからアリスちゃんに直して、今度こそ質問したのだけれど、どれもかわされてしまう。
「アリスちゃんは、嘘の歳を答えていたんですか? だって学校は」
何から質問したものかという様子ながらも、夏海が一生懸命に質問を投げてくれる。
それに対して、少し困ったような顔をするも、アリスちゃんは嘘など吐いていないといったようで、さも真実かのような語りを始めた。
本当は三十代だったという、そっちが嘘だったのか?
「あら、何を言っているのか分からないわ。夏海さんにはお話しした筈よ。家の為にどうしてもお金が必要で、働き口を探していたところ、事務所の社長が声を掛けてくれたって。それから夏海さん付きのマネージャーになって、仕事も多いし、夏海さんはとっても良い子だから遣り甲斐もあって楽しくて、感謝しているわよ」
デレデレと、夏海は褒められて好い気になってしまったようだ。
これは完全に話を逸らしているんだよね……。ったく、夏海はどこまで素直なんだよ。
「自分で三十三歳だって、言っていたでしょ」
「まぁ、倍以上に見えるの? 女の子にそういうことを言うの、どうかと思うわよ。十五歳の美少女に向かって、三十三歳だなんて。勘違いしないで、永遠に十五歳だから」
失礼しちゃうと、ふざけた口調で言うけれど、永遠の十五歳は十五歳じゃないことを認めたようなものじゃないか。
これってもしかして、前から十五歳だって言っていたということ?
何年前に夏海と出会ったのかは知らないけれど、夏海と出会ったその時点で十五歳。だけれど、今になってもまだ、十五歳のまま。
それはおかしいって、さすがの夏海でも気付くかな。
年上だった人が同い年になって、今度は年下になろうとしているなんて、ありえないことだって分かっているよね……?
年齢を取らないループ系作品の登場キャラクターじゃないんだから。
「きっともうすぐ、全部、教えて貰えるようになるから……探る必要なんてないのよ。教えざるを得なくなる、バレるとすら言えるくらいだけれど、同じことよね」
呟いたアリスちゃんの言葉は、二人への言葉だったのか。少しも夏海の耳には入っていないようであるけれど。
それとも俺にだけ聞こえるように、わざと小声で言ったということか。
それとも、言葉にするつもりもなかった、独り言として口から洩れてしまった、俺も聞くべきでない言葉だったのか。
アリスちゃんのことは気になるけれど、仕事を疎かにする訳にはいかない、絶対に。
結局その日は、誤魔化されたようなまま終わってしまった。




