Ⅳ
言葉を真実と信じ、疑わない夏海に、疑いを持たせることは良いことだろうか。
彼女がなぜ夏海を騙していたのかを考えていると、ふと、俺はそう思った。
唯織さんだって、夏海と遊んでいるときほど、普段は明るく元気なタイプではないだろう。あの顔で、さらっと嘘だって吐いていた。
それは確かに夏海を騙すことではあるけれど、悪いこととも言い切れない。
つまりは唯織さんのそれと、同じことなのではないだろうか。
折角、夏海の為を想ってしてくれたことを、俺が勝手に嘘を暴いて、裏切りを夏海に告げるのが良いことか。悪戯に夏海を傷付けているだけではないか。
とはいえ、いつまでも夏海だってそのままでいる訳でもないし。
そう考えると、嘘を吐いていたというよりも、夏海が嘘を吐かせていたと考える方が正しいのだろうか。
ここまで素直で無邪気な夏海の隣では、誰もがそうあらなくてはならないように思えてしまうから。
分からない。どういうことなのだろう。
そういえば、お母さんの友達なのだと言っていたけれど、それはどうなのだろう。
そんな嘘を吐く意味は、年齢詐称よりもきっとないから、間違えなく本当のことだと思って大丈夫だろう。
だけど、それを最後に伝えてくれたのはなぜ。
分からないことが多過ぎて、俺もへなへなと夏海の傍に倒れ込んでしまった。
「次に会ったら、どういうことなのか、アリスちゃんに聞いてみます。本人不在で推測するよりも、それが一番でしょう?」
微笑んで夏海はそう言ってくれたけれど、それを彼女が求めているかどうか。
だって夏海に知られたくなかったから、隠していたんじゃないだろうか。
もう俺は話してしまったのだし、今更かもしれないけれど、夏海からは言わせない方が良いかもしれない。
でもだからって、知らないふりをさせるということで、夏海に嘘を吐かせたくはない。
演者なのだから、上手く誤魔化すことは出来るのかもしれない。こう見えても、夏海は天才子役から演技力でやってきた、演技派天才声優だ。役者だ。
ゲームやらアニメやらで、その実力は十分に知っている。
けれどそれと嘘とでは話は別だ。
「うん、そうだね。今度、アリスさんに会ったら、二人で質問してみようか」
どうしてもアリスさんという言い方には、違和感を覚えてしまってならない。
彼女だって怒りはしないだろうし、今までと同じように、やはりアリスちゃんと呼び続けようか。
分からないことばかりで、本人に聞いてみるのが一番だということで。
夏海の言葉はその通りだと思う。
だから俺は、心身ともに疲れていたのもあって、考えるのを止めていた。そしてそのまま、ソファーで眠ってしまっていた――。




