Ⅱ
女性にこんなことを言うのは、失礼だと思う。けれど、仕方がなかった。
「アリスちゃんは、本当に十五歳なの?」
何を考えているのか分からない、不思議な笑顔だった。
年齢だけでなくて、彼女の存在自体が、怪しく思えてくる。
「よく気が付いたわね。さすがに、十五歳って言う設定は無理があったかしら。顔は若い方だと、自分でも思っているんだけれど、残念だわ」
それこそ、会話を取ってみれば、ゲームでよく聞くようなものだ。
お前、本当は違うんだろ。よく気付いたな、ふふふ。みたいなやり取り。
これに続くとしたらなんだろう。
クソッ! となるか。お前、何者なんだ……、となるか。きっとその二択だろう。
「それじゃあ、反対に何歳だと思う? 正直に予想してみて頂戴」
何を言おうか考えていると、アリスちゃんの方から、問題を出されてしまった。
その上、物凄く答えづらい問題。
外見で言って良いのなら、小学生にだって見えるくらいなのだ。
しかし、大人っぽく思えて、十五歳なのかと訊ねているのだ。それなのに、十五よりも下の年齢を答えられはしまい。
行動や表情からして、これだけ大人びているのだから、六十代の淑女くらいに言うか。
三十五とか答えて、実年齢よりも微妙に上くらいになってしまうと、シンプルに傷付けてしまいそうだし。
どうにも、少しも想像がつかないものだから、どの程度に答えれば妥当なのかがさっぱり。
「黙っちゃって。難しかったかしら? 何回でも答えさせてあげるから、さあ、予想してご覧なさい。今を逃したら、今後、それを聞く機会なんてなくなってしまうわよ?」
迷惑は掛けられないから、休憩が終わったら、練習に戻らなければならない。
つまりはそれまでの時間が、タイムリミットということか。
「三十二歳、とか。全くそうは見えないんだけどね」
「あら、鋭いわね。全く見えないと言うわりには、ほとんど正解みたいなものよ。あと少しばかり、上になるかしら」
自分で言っておいてなんだが、近いと言われると驚愕してしまう。
「じゃあ、三十三」
「ええ正解よ、よくそんなすぐ当てたわね。案外、年相応だったということ?」
この少女が三十代だなんて、誰か信じられようか。
正解はしてしまったみたいだけれど、驚きなんてレベルではない。
「あっそろそろ時間ね。ちなみに追加情報を与えておくと、冬樹さんのお母さんの友達よ」
悪戯っぽく笑って、驚くべき情報をプラスして、彼女はマネージャーとしての顔に戻ってしまう。
お母さんの友達って、どういうことなんだよ。
信じられないような情報が、一度に入ってきたことにより、混乱してしまいそうだった。
緊張とか不安とかは、ある意味では軽減されたかもしれないね。
夏海はどこまで知っているのだろうか。全て知っていて、俺に隠していたのだろうか。
いや、夏海に限ってそんなことはない筈だ。
「冬樹さん、どうしたの? ちゃんと集中しないといけないわよ」
アリスちゃんのその声で、現実に戻されて、とりあえずは集中して練習に取り組む。
しかし動揺を拭うことは出来ないのであった。




