ⅢーⅠ
「お兄ちゃん、大好きですぅ!」 「I LOVE YOU!」
ちょっと待って。最後まで歌い終わったのはいいんだけどさ、てかそこまでは普通に可愛かったよ? 最後の台詞、入ってるの? 本当に。
だって唯織さんの声、行き成り低く大人っぽくなるし。
夏海なんて、思いっ切り過ぎる地声で叫んでるし。
「お兄ちゃん、どうでしたか? 最後の言葉は、お兄ちゃんに向けて特別に入れました。CDじゃ聴けない、貴重な台詞なんですからね」
やっぱりね、夏海が勝手に言っただけか。まあCDでそう入ってたら、俺本気で戸惑うと思うしな。
「ワタシは、今回特別ってわけじゃないんですよね。ライブで一回、やったことあるんです」
マジか……。だってどこをどうしたら、ライブでそう言うことになるの?
「どうしてそんな悲劇が起きてしまったのか、その真相はこれで解明されます。『二人の可愛いショコラティエが』えっと……」
唯織さんはそのまま宣伝をしようとして、途中で止まった。ライブ名的なの? を、覚えてなかった感じかな。
「夏海が分かりますよ! 『二人の可愛いショコラティエが、恋のちょこれーとを皆のハートにお届け♡』、だった気がします」
何だっけなあ、っと唯織さんが考えているので、代わりに夏海が説明してくれた。
「あれねー、超面白かったんです。冬樹さん、早く見て下さいね。ワタシたちの、初ライブですよ」
「いおが凄い緊張しちゃってて、夏海は観客と大爆笑でした。”恋ちょこ”の発売記念で、開催されたライブなんです」
そして楽しそうに、唯織さんと夏海は微笑み合う。本当に、仲良しなんだな……。
「じゃあ、午後始めるよ」
おっさんが俺達を呼びに来る。もうそんな時間か……。
「斉藤、まだ残ってるんですか?」
唯織さんが、おっさんを捕まえて問い掛ける。
「まだまだだよ。特殊イベント発生時の場合、一つも撮ってないでしょ?」
「そうなんですか? えー、紗彩の出番ないでしょう」
唯織さんは唇を尖らせながらも、凄く楽しそうに行く。
「鶴見さん、『僕の翼』の時にはお世話になりました」
いつの間にか夏海は俺の隣にいなくなり、少し前の男性に話し掛けていた。
俺は現実でも、そうなってしまうような気がした。
夏海は俺の隣から、いなくなってしまうよう。
まあそれは、当たり前のことなんだけど……。
いつかは夏海も、俺から絶対離れて行くんだろうけど。
でもやっぱり、寂しいよね。
今はまだ夏海は、俺のことを大好きって言ってくれてるけど。
大人になれば、彼氏とか出来るんだよね。俺の知らない誰かと、結婚とかもするんだろうな。




