ⅣーⅠ
妙にニヤニヤしていると思ったら、そういうことだったのか。
「お前、これを買ったのか? 滅茶苦茶可愛いとか、そんなように思ったのか? 何それ、マジ引くんだけど……」
俺に恥ずかしい思いをさせる為に、購入をした訳ではあるまい。
こんな馬鹿だけれど、きっと邦朗は俺を元気付けようとしてやってくれたことだと思ったから、冷たい視線を向けるだけにしておく。
それに、ネタなんだろうから、拾ってあげないとね。
「せっかく横島さんが貸してくれたから、手元にあるうちに、冬樹に聞かせてやろうと思って。ごめん、さすがに買おうとは思えなくって、でも可愛いと思ったのは嘘じゃないぞ?」
とりあえず、購入するほどではなかったようで、そこには一安心。
ただのネタ用品だったとしても、これを邦朗が買ったと思ったら、ちょっと距離を取っちゃいそうだから。
しかし横島さんから借りたものだとしても、聞いて可愛いと感じたことは、嘘じゃないと主張している。
フォローのつもりの言葉なようだけれど、それはそれでどうなのだろう?
「え、マジで? 気持ち悪っ」
「はぁ? 気持ち悪いってなんだよ。別に冬樹を可愛いと思ったんじゃなくて、キャラクターを見て、聞いた上で可愛いと思っただけだっつの」
つい漏れた本音に、邦朗が反論をしてくる。
「だとしても、女性向けドラマCDを聞いて、ときめいちゃった系男子高校生だろ? 十分に気持ち悪いわ」
「気持ち悪かねぇよ! 全国のときめき男子高校生たちに謝れし! そんじゃ、お前も最後まで聞いてみろよ、本気で可愛いから」
なんとか俺が一時停止をしたというのに、邦朗は再生をクリックしようとする。
それは困るのですぐさま邦朗を捕獲し、俺の行動を邦朗が妨害することを阻止しつつ、パソコンからCDを取り出して片付けてしまった。
ここまでしたなら、そうすぐには再生出来ないだろう。
「全国のときめき男子高校生ってなんだよ。というか、可愛いと思わせたいんなら、せめて他のものを選んだらどうだ? 自分の声を聞いて、何これ可愛い、なる訳ないだろ!」
千博さんとか、普通にかっこいいと思うし。
物理的にも再生出来ないようにし、その行動を起こそうとすることも抑えさせる為に、全身全霊を込めてツッコんだ。
これでもう、同じボケをかますことは、かなりしづらくなったことだろう。
「そんなことを言われたって、男性声優さんの作品は知らないし、女性向けドラマCDなんて買ってないからな。今、手元にあるもので行ったら、これしか選択肢がない」
つまりは邦朗自身だって、別に好きという訳ではないのだろう?
可愛いと思ってしまった時点で、これからどうなるか分からないし、そこが危険なところでもあるように思えるけれど。




