ⅢーⅤ
そこまで恥ずかしがるような内容だとは思えなかった。
それはまあ、大好きだって口に出して言うのは、十分に恥ずかしいのだけれど。
しかし夏海は、普段からそれをしている訳だし、俺に求めることだって、これまでにもあったような気がする。
彼女の様子からして、口にすることすら恥ずかしいような内容を、言われてしまうんじゃないかと思った。
可愛い妹だから信じたいけれど、これまでがあるから、そこまで純粋ストレートな言葉がくるとは、思わないじゃないか……。
名前を呼んで、大好きだと言う。
台詞には大好きというのは多いだろうけれど、本気でそれを、特定の人物に向けて言うというのは、確かに恥ずかしいことだとも思う。
実際に人が目の前にいる中で、そのようなことを言うのは恥ずかしい。
少なくとも、普段の俺がすることじゃない。
だけれど可愛い妹のお願いだ。
「夏海、大好きだよ」
変にかっこつけたら恥ずかしさが増す。照れ隠しにふざけたら、夏海の要望に全力で応えているとは言えない。
そんなものだから俺は、少しぶっきら棒になっていたかもしれないが、普段通りの風でそう言った。
きっと夏海だって、作られた俺を望んでいる訳ではないだろうし。
「うっ……! お、お兄ちゃん、夏海、死んでしまうかもしれま……せ……ん…………」
無駄な演技力で、夏海は死を告げてきた。
本当に苦しんでいるように見えるから、心配になってはしまうけれど、心配の声を掛けたなら、演技派な彼女の罠に取り込まれていると考えて良いだろう。
間違えなく、狂気じみた設定の演劇に巻き込まれる。
「死にはしないから、大丈夫だと思うよ」
適当にそう返してやると、夏海は悲しげな表情をする。
声優だというのに、演技のプロともなると、表情まで巧みに操れるようになるのだろうか。
「お兄ちゃんは、夏海が死んでしまっても、それでも良いと仰るのですか?」
「死なないから大丈夫」
涙目にしようとしているようで、瞬きを繰り返したり、反対に目を見開いたりしているが、涙を溜めるのは難しいらしい。
泣き真似をするのではなくて、瞳に涙を溜めて、本当に泣きそうなようにしたいのだろう。
しかし努力が見えてしまっているので、残念ながら噓泣きは失敗だね。
そんなことを思いながら、迫ってくる夏海を軽くあしらい続ける。
「でも夏海、お兄ちゃんからの愛の告白、とっても嬉しかったです。ほんとに、ほんとうに、嬉しかったです。次は夏海がお願いするんじゃなくて、お兄ちゃんの方から言ってくれると、もっと嬉しいんですけどね。……それじゃあ、時間も時間ですから、お風呂に入ってきますね」
さすがに今度は、一緒に入ろうなどと言わないで、夏海は風呂へ行ったようだった。
寂しそうな顔をするなよ。本心を演技で飾って誤魔化しているのか、どれも演技に過ぎないのか、分かりづらいことをするなよ。
心配になってしまうじゃないか、俺は夏海のお兄ちゃんなんだから。




