ⅢーⅡ
「お兄ちゃん、けっこん、ってなぁに?」
可愛らしく首を傾げて、少女はそう訊ねてくる。
この可愛い可愛い女の子は、俺の妹なのだ。
「結婚っていうのは、好き合っている女の人と男の人が、するものなんだよ」
どうしてそんなことを言うのかと思ったら、幼稚園で読んだシンデレラの最後に書いてあったのだそう。
シンデレラか。夏海は可愛いから、いつか王子様が迎えに来てしまうのかもしれないな。
でも変な人が来ないように、それまでは俺がきちんと守らないと。
だって俺は、夏海のお兄ちゃんなんだからね。
「じゃあ、夏海とお兄ちゃんは? けっこん、するの?」
「えっ、いや、結婚は大人の人がするものだから。夏海とお兄ちゃんじゃ、出来ないんだよ」
夏海は女の子で、俺は男の子で、夏海は俺のことが好きで、俺は夏海のことが好きで。
確かにそうしたら、俺と夏海は結婚するということになる。
そうか。そうだったんだ。
一番に夏海を想っているのは俺なんだから、俺が夏海の王子様になれば良いんだ。
結婚って何をしたら良いんだろう? 大人になったら、結婚は出来るのかな?
「大きくなったら、結婚しようね。夏海、ちゅーは?」
俺はお兄ちゃんだけど、まだ結婚のことはあんまりよく知らない。けど大人になったら、分かるようになる。
それで、それで、大人になったら、俺は夏海と結婚するんだ。
「うん。夏海、お兄ちゃんと結婚する!」
嬉しそうにそう言って、楽しそうに部屋の中を走り回る。
そしてその後、夏海は俺のほっぺに可愛い唇を付けて、チュッと可愛らしい音を立てる。
結婚するときは、口と口とでちゅーをするんだ。
だからそれまでの間は、まだ子供だから、口じゃなくてほっぺにちゅーをするんだ。
「ねえ、お兄ちゃんも! お兄ちゃんも夏海にちゅーして!」
「分かった。分かったから、こっちに来て」
走ったり跳んだりしている夏海を呼ぶと、俺の方に歩いてきて、大きくてキラキラした瞳を閉じた。
そうされちゃうと少し緊張するんだけど、夏海が待っているので、俺は夏海のほっぺにちゅーをした。
手で触っていても柔らかくて気持ち良いけれど、唇が触れるともっと近くで柔らかさが伝わって来て、それ以外にも不思議な甘さも感じた。
夏海はお菓子じゃないんだから、甘い訳なんてないのに。
でも夏海はお菓子みたいに可愛いから、お菓子みたいに甘いのかもしれないな。




