ⅡーⅩ
こんなに素直で優しい妹なのだ。
魅力的な女の子だとは思うけれど、妹なんだ。
「ん、あぁ、どこが分からないんだ?」
心配してくれてのことだとは分かっていたけれど、わざと俺はそう訊ねた。
なんと答えて良いか、分からなかったのだろうか。夏海の優しさに、応じる言葉を持っていなかったのだろう。
勉強のことを考えていたふりをして、少しでも格好を付けたいのだろうか。夏海のことを考えていたのだと、覚られてしまいたくなかったのだろう。
だから、なんでもないように言ったのだ。
「そうじゃないんですけど、なんだかお兄ちゃんの様子がおかしいようでしたので。具合が悪いのでしたら、休んだ方が良いと思います。大丈夫ですか?」
大丈夫ですか、かぁ。そう言われてしまうと、大丈夫じゃないかもしれないね。
具合が悪い訳ではないけれど、一瞬でも妹にドキッとしてしまっただなんて、大丈夫じゃないよ。
って、こんなこと、絶対に夏海には言えない!
そんなことを口にした日には、人生が終わるんじゃないかと思う。
とにかく、俺と夏海は兄妹。
夏海がこんななんだから、俺がそこのところをしっかりしないといけない。だから俺は……。
「少し、顔が赤いようにも思えます。やはり具合が悪いのではないでしょうか」
はっきり大丈夫と答えられなくて、もごもごとしていると、夏海にそう言われてしまった。
顔が赤いか。
それだと、いよいよ本格的に病気が悪化してしまっていそうだね。
このままじゃあ、シスコンと言われても否定出来なくなってしまうよ。
そんなんじゃない。そうじゃない、筈なのに。
「いや、それは大丈夫だよ。ありがとね、心配してくれて」
「当然です。夏海はお兄ちゃんのことが大好きですから。お兄ちゃんが夏海の傍にいたいと思ってくれるのは嬉しいですが、無理をさせてしまうのは嬉しくありません」
優しいよ、夏海は。
そう簡単に、当然です、なんて言えることじゃないよ。夏海にとっては当然のことかもしれないけれど、その優しさは当然のことじゃないんだ。
好きだと言うだけでなく、俺のことを想ってくれているのが伝わる。
彼女のその表情から見るに、きっと胸を痛めてくれている。俺に無理をさせてしまっているんじゃないか、そう考えたのだろう。
そんな彼女に今のままでいて貰う為には、俺も変わる訳にはいかない。
「ありがとう。でも間違えているみたいだね。夏海の傍にいたいと思って、ここにいる訳じゃないからね」
ブラコン発言をする夏海に、ツッコミを入れるのが俺なんだ。
それにさっきは急な変化に驚いて、ドキドキしたんだと勘違いしてしまっただけだ、きっと、そうだ。




