ⅡーⅦ
俺が答えなければ、電話を奪い取るくらいの気持ちが感じられる。
「それとも、夏海に知られたくないようなことがあるのですか? 自分で応対しなければいけない相手とかなのですか? それなのでしたら、夏海は大人しく諦めるのですが……。電話、夏海が代わってはいけませんか?」
もしかしたら、夏海は誰からの電話なのか気付いているのかもしれない。
しかし勝手に夏海に代わろうものなら、きっと唯織さんは怒ることだろう。
「あの」
『声を出さないで下さい』
勝手に代わっちゃいけないとしても、彼女に許可を取ろうとしたって、話を聞いてすら貰えない。
唯織さんの低い声でそう言われると、怯んでしまってどうしても従ってしまう。
「あの、夏海が電話を代わってくれと言っているのだけど、どうすれば良いですかね」
それをどうにか耐え抜いて、電話越しにでも感じられるプレッシャーの中で、俺は最後まで言い切ることに成功した。
声は恐怖に震えていたことだろう。
けれど、夏海がそうして欲しいと望んでいるのだから。
シスコンだとか、そういうことじゃないんだ。
ただ、可愛い妹が望むことだから、兄として応えたいと思うだけ。
それに今は、夏海が強く逞しく見えるから、俺だって情けなく怯えているだけもいられない。
『なーちゃんが? そうですか。えぇ、代わって頂いて良いですよ。冬樹さんではなーちゃんを不安にさせるばかりでしょうから、ここでワタシがなーちゃんを安心させて差し上げます』
すんなり許可を出してくれたことが、反対に怖いと思わせた。
しかし唯織さんが良いと言ってくれたのだ。
「お電話代わりました。冬樹の妹の夏海です」
俺が夏海に電話を手渡すと、彼女は普段とは全然違う、電話応対術を見せてくれた。
まだ会話をしていないのだから応対とも言えないのかもしれないが、電話を代わったその瞬間時点で、俺より上だと感じざるを得ないよね。
とはいえ、唯織さんのことだから、きっと上手く丸め込むのだろう。
そうする手を思い付いたから、電話を代わることを簡単に許可したのだとか?
俺の表情も含めて、全てに説明が付くような、上手い言い訳が?
唯織さんが何を考えているのか。全く、想像も出来なかった。
「あっいおだったんですか? そうですか」
電話をしているのを、ただ隣で見ているだけというのは、不思議なくらい不安になるものだ。
俺が電話をしている間、夏海はずっとこんな気分だったのかな。
それに彼女は、俺が誰と話しているかも知れなかったのだから、不安はもっと大きなものだったことだろう。
電話の向こうで唯織さんが何を言ったのかは分からない。
だから、夏海の言葉から会話を推測するしかない。
夏海はそれも出来なかったのだけれど。不安だろうなぁ。




