ⅡーⅣ
もしかしたら、夏海による洗脳だったのかもしれない。
妹の攻略術ばかり教えられている気がする。妹は可愛いもので、兄妹での恋愛は不自然なものではないのだと、洗脳されているような気がしないでもない。
え? 俺がゲームにハマりつつあるのは、夏海の計算通りってことなのだろうか。
うちの妹は良い子だから、夏海に限ってそんなことはないと思うんだけど。
「お兄ちゃん、感動しちゃいましたか? 夏海の愛情を、モテない兄への気遣いだと思っていたなんて、寂しかったことでしょう。それでいつも夏海を拒んでいたんですね……。安心して、夏海は本当に、お兄ちゃんのことを愛していますから」
素直な良い子なんだよ。今だってそう、驚くほどポジティブな解釈をされた。
まず最初に、俺が怪しみ呆れて黙っているのを見て、彼女は感動したのだと考えた。感動なんてする訳がない。
俺がモテるのは事実だ。
数分前にそう言っていたというのに、モテない兄へって、意見が変わるのが早過ぎる。
自分で自分がモテているとは思わないけれど、先程夏海自身が言っていたことだよ? 俺がモテる設定なら、それをしっかり守ること。モテない設定にしてもしかり。
そして俺は夏海を拒んでいたつもりなどない。
仲の良い兄妹として、ちゃんと接していたつもりである。
ついでに言うならば、本当に夏海が言った通りの感じだったなら、俺は相当寂しい奴じゃないか。
最後の言葉なんて、どこが安心出来ようか。
全部が冗談だというのなら、ただムカつくだけで終われる。
だけど夏海が本当に、本気そうな顔をしているから、対応に困っているのである。
全くもって安心なんて出来たもんじゃないね。
「どうして夏海は、俺なんかをそんなに愛してくれるの? もっと素敵な人は沢山いるのに。出会いがないのかと思ったけれど、仕事をしている中で、いろいろな人に会うだろう? たとえばほら、千博さんとか」
とりあえず一緒に入浴するつもりはないので、リビングまで連れ戻すと、それぞれ着席してから俺はそう言う。
いつからだっただろうか。
一体どうして、いつから、夏海はこんなにも俺のことを慕うようになったのだったろうか。
きっかけというのがあったんだろうけれど、気付けばこうなっていた。
その理由がなんだか、俺は覚えていないのか、俺の知らないところにあったのか。
それすらも分からない。
「お兄ちゃん酷い。なんで、そんなこと言うんですか? 夏海が離れていくのが、お兄ちゃんは寂しくないんですか?」
夏海の愛情を俺への憐れみと思ったことはないから、そこに寂しさを感じてはいない。
しかし夏海が離れていくことに、寂しさを感じないとは言っていない筈である。
それに、いくら寂しいとしても、俺が夏海を縛るのは良くない。




